26. 前置胎盤
前置胎盤は子宮下部に胎盤が形成され、内子宮口にかかる状態である。分娩期にむけての子宮口の開大徴候は、脱落膜と胎盤の剥離を惹起し、妊娠中の出血の原因となる。剥離の程度が軽度で自然止血することもあるが(警告出血)、出血が持続する場合は分娩とし、胎盤を娩出した後の子宮収縮による止血機転(生理的結紮)で止血をはかるしかない。子宮下節は子宮筋の収縮力が弱く弛緩出血となりやすいことや、子宮内膜が薄く癒着胎盤になりやすいことから、帝王切開中の多量出血にもなりやすい。
そのため、前置胎盤であるだけでは自覚症状がないので、妊娠中期(妊娠23-24週頃)の頸管長チェックと合わせて全例にスクリーニングする方法や、経腹超音波で子宮下部に胎盤が付着している場合に経腟超音波で精査するなどで診断しておく。前置胎盤の超音波診断はしばしば難しい場合があるので、正しく診断することが重要である。
経腟プローブを腟内に挿入し、ゆっくりと前腟円蓋まで進める。頸管を描出させる時に頸管が屈曲しないように気をつける。一旦前腟円蓋に進めたプローブを少し引き気味にしてきれいに描写できる場所を探す。胎児先進部が子宮口や胎盤に密着する場合は、下腹部から先進部を軽く押し上げて、隙間をつくると診断しやすくなる。また、後壁の胎盤付着の場合、頸管をプローブで強く押し過ぎると前壁が後壁に近づき、あたかも前置胎盤であるかのように描出されることがあるので注意する。
妊娠中期に前置胎盤と診断されても、その後そうでないと診断されることがある。妊娠15-24週に前置胎盤と診断されるのは1.1-3.9%であるが、分娩時の診断では0.14-1.9%に減少するという報告があるが1、これは、胎盤のmigrationという現象があるためである。胎盤のmigrationは、妊娠中期に起きる子宮下節の開大と、妊娠末期に著明となる子宮筋の伸展による胎盤辺縁と子宮口の超音波画像上のみかけの変化で、子宮の増大とともに胎盤が子宮口より離れていくようにみえることを言う。
しかし、最近の解像度のよい超音波機器で観察すれば、子宮頸管、子宮下節の判別が可能で、これらの変化をとらえることができる。胎盤と子宮下節、頸管の位置関係が正しく認識されれば、妊娠中期でも、より正しい前置胎盤の診断が可能となる。2
真の前置胎盤は、leaf likeに描出される頸管腺領域の最上端に胎盤が覆う状態である(上図)。頸管腺領域を明瞭に描出し、そこよりもさらに子宮体部側で内腔が閉じているように見える場合は、子宮下節が閉じている状態(時期)であると考える。子宮下節が閉じている状態では、真の前置胎盤を診断することは困難である。それは、前置胎盤様に見えていたものが、下節開大後にそうでなくなる場合が多いからである2。そのような場合は、子宮下節が開大するまでまってから診断する。(下図)
前置胎盤は、妊娠中に急な出血によって緊急帝王切開が必要となるだけでなく、帝王切開時にも癒着胎盤の合併が明らかになることや、出血多量のために子宮全摘を含めた集学的治療を要する場合がある。前置胎盤の帝王切開では、それらに対処するため多くのマンパワーを含めた医療資源が必要である。
前置胎盤の平均分娩週数は 34-35 週であるため3、夜間や休日でも緊急帝王切開ができ、早産児や低出生体重児でも管理ができる高次病院での妊娠管理・分娩とし、診断後はなるべく早期に紹介する。無症状の前置胎盤を持つ妊婦に対しての入院管理、子宮収縮抑制薬、子宮頸管縫縮術が予後を改善するというエビデンスは乏しいが1、警告出血があった場合の7割は緊急帝王切開になるため、出血例は入院管理とする4。
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