28. ジャンプアップ4(複雑な基線2)

 再び心拍数基線の判読を見てもらう。取り返しのつかない事態に陥ったものたちである。

 

  • 判読してください(図1)

 日本医療機能評価機構の脳性麻痺事例の胎児心拍数陣痛図である。

 妊娠41週、分娩進行中のCTGである。結果を知ってから見ると、容易に判読できるであろう。

 

  • 基線はどっちだ?(図2)

 繰り返す高度遅発一過性徐脈である。心拍数低下は15bpmを超え、基線細変動も減少気味で、レベル3あるいは4である。しかし、現場の医師、助産師はこれらを看過し、一過性頻脈と判読している。「基線はどっちだ?」の世界である。

 もうお分かりと思うが、心拍数の上昇(本来は回復)は短く見えるが、いずれも1分以上の経過をたどり、一過性頻脈と判読することはできない。

 この判読の誤りは後に深刻な事態を招く。

 

引き続くCTG(図3)

 上段、下段とも連続したCTGである。

 上段のCTGでは繰り返す遅発一過性徐脈が段々と深くなり、かつ、低下時間も延長している。

 繰り返す遅発一過性徐脈が遷延一過性徐脈に移行すれば比較的短時間で、児の自律神経系は破綻する。このCTGはスタートアップ10で提示した症例である。

 

  • 2度と出会いたくないCTG(図4)

 アドバンスのためにその続きをご覧いただく。

 このCTGを見るまで、徐脈の後は、心拍数が徐々に低下し、心停止に至るものと考えていた。しかし、産科医療補償制度の原因分析委員会で経験したいくつかの症例では、図4に示すように大きなサインカーブを描いていた。完全にコントロールを失った、何か道に迷ったようなCTGである(Wandering FHR)。

 どうか、こんなCTGに出会わないよう管理をしていただきたい。

 

  • 一過性頻脈は緩やかに増加しない(図5)

 くどいが、もう一例脳性麻痺の症例をご覧いただく。

 これも現場は、一過性頻脈と判断し静観していた症例である。このCTGには、心拍数基線の判断(一過性頻脈か一過性徐脈の判読)もさることながら、もう一つ大きな問題がある。

 お分かりになるであろうか。

 

  • 収縮計の装着(図6)

 子宮収縮計がうまく装着されていないのである。

 収縮波形が記録されていなければ、仮に一過性徐脈と判読しても、その種類を限定できない。近年、フリースタイルによる管理が増加しているが、異常心拍が出現した際には、セミファーラー体位などに戻し、収縮が正しく記録されるよう配慮を願いたい。

 どちらかと言えば、図1−3(上段)のように、子宮収縮計が強く巻きすぎている方が、判読には役立つ。