28. 胎盤早期剥離
胎盤早期剥離は胎児が子宮内に存在するにもかかわらず、胎盤が脱落膜で子宮壁より剥離してしまう状態で、子宮壁から絨毛間腔への流入する母体血が子宮内腔や子宮外に漏出することとなる。
急性の胎盤早期剥離
胎盤早期剥離の超音波所見は、胎盤辺縁が剥離して、羊膜と子宮筋の間に血液が溜まると、羊水(無エコー)よりも少し輝度の高い血液貯留(絨毛膜下血腫: Subchorionic hematoma)として描出することができる。胎盤と子宮壁の間に溜まってエコーフリースペース(胎盤後血腫)が描出されたり、胎盤実質と凝結した血液とが一塊となった(胎盤肥厚)像などが描出されたりする。これらの所見が見られた場合の胎盤早期剥離の診断率は高い(陽性的中率が高い)。
子宮内のmassが胎盤なのか血腫なのか判別しづらいときはカラードプラを用いて判断する。胎盤には血流が存在するのでカラードプラに色がつくが(P)、血腫(H)や梗塞には血流がなく色がつかない。ただし、最大血流の表示を遅く設定しないと胎盤でも血流が表示されず、これらの鑑別はできない。ドプラ感度の高い、微小血流表示やパワードプラで観察した方がよい。
一方、子宮口からの血液流出が多く、子宮内に血液が溜まらない場合や、発生初期の胎盤早期剥離の場合は、超音波診断するのは極めて難しい。超音波所見による胎盤早期剥離の診断の感度は低いため、所見が無いからといって、胎盤早期剥離を否定することはできない。疑わしい場合は繰り返し検査を行う必要がある。
慢性の胎盤早期剥離
上記の胎盤早期剥離の所見は、典型的に急性発症した場合の胎盤早期剥離であり、脱落膜におけるらせん動脈の破綻が原因で急速に胎盤が剥離したものである。一方、胎盤周辺部の静脈性の出血が原因で、胎盤と接していない子宮壁との間に血腫が拡がり、胎盤の剥離はあまり進行せずに胎盤早期剥離をまぬがれた状態である慢性早剥の状態がある。
絨毛膜下血腫の様なエコーフリースペースは、胎盤形成期の妊娠初期にはしばしばみられる。妊娠初期に形成された絨毛膜下血腫は1~2ヶ月で自然消失する事が多いが、中には妊娠中期まで血腫が持続し様々な妊娠合併症(急性な早剥や前期破水など)を引き起こす事がある。
左のエコーフリースペースが絨毛膜下血腫