31.脳梗塞既往のプロゲスチン投与は?
産婦人科ゼミナールでの連載も5年半を経過し、いい加減、四方山話も飽きてきた頃かもしれませんが、知人の先生から時々質問を頂きますので、久しぶりの今回はそれをネタにしたいと思います。
今回のお題は、脳梗塞既往の患者さんにプロゲスチンは投与できますか?
です。「プロゲスチン投与は脳梗塞再発率を上昇させるので禁忌」の一言で済ませて脳梗塞既往の患者さんいホルモン療法は一切やらない方針でも一見妥当な気もしますが、実は大雑把な見解ですので、もう少し掘り下げてみましょう。
確かにOC/LEPガイドラインだけでなく、ホルモン補充療法ガイドラインにおいても、OC/LEP, HRTいずれも禁忌で、どちらかというとエストロゲンの血栓塞栓症リスクの寄与の方が大きい気もしますが、エストロゲンの肝初回通過効果のない経皮製剤でも脳梗塞再発リスク上昇が無いとまでいえるエビデンスが存在しないこともあり、原則処方は避けるべきです。
特殊な個別事情があれば、DOAC等の抗凝固薬と併用してOC/LEP, HRTを処方することは理屈上考えられますが、禁忌薬処方となるため一般的にはお勧めできません。
OC/LEP, HRTではなく低用量プロゲスチン単剤なら、未閉経における内因性プロゲステロンの作用と大して変わらないので問題ないのでは?とも考えられますが、メドロキシプロゲステロン(MPA)には、添付文書に禁忌と明記されているので、禁忌薬処方という社会的観点からヒスロン®、プロベラ®等の処方は避けるべきです。ちなみに天然型黄体ホルモン製剤であるエフメノ®カプセルも添付文書は禁忌です。
しかし、実は、ジドロゲステロン(デュファストン®)、ジエノゲスト、ミレーナはいずれも黄体ホルモン製剤ですが、添付文書上において脳梗塞既往は禁忌に該当しません!
ミレーナは、子宮内の局所に作用して黄体ホルモンの全身作用が少ないことから、禁忌処方に該当しないのは理解しやすいと思います。
ジエノゲストは、エストロゲンやアンドロゲン受容体に対して多少なりともアンタゴニスティックに作用する分、エストロゲン・アンドロゲン作用に起因する血栓塞栓症リスクが減り、脳梗塞再発リスク上昇のエビデンスが出るほどの臨床的有害事象が出現しないものと考えられます。
ジドロゲステロンは、エストロゲン、アンドロゲン受容体親和性はほとんど無いので、これらに対してアゴニストでもアンタゴニストでもありません。また、
細かな理屈はともかくとして、未閉経の脳梗塞既往患者さんにプロゲスチン単剤投与をいきなり諦めるのではなく検討するのであれば、禁忌記載のない薬剤から吟味されることをお勧めします。