34. 臍帯下垂・脱出
臍帯下垂は、未破水の時に臍帯のループが胎児先進部よりも産道側に位置する状態で、臍帯下垂が破水して、臍帯が産道へ降りてきた状態が臍帯脱出となる。臍帯脱出が起きると児の先進部と産道との間に挟まった臍帯が急激に圧迫されて胎児機能不全となる。周産期死亡率は9.0%に及び、妊娠36週以降の例に限っても、死亡や後遺症のないintact survivalの頻度は90%を下回る。産科医療補償制度の脳性麻痺事例においても、早剥に次いで多い原因である。 胎児先進部と産道との隙間の狭い頭位には少なく、先進部と産道の間に余裕のある横位、骨盤位、双胎などに多い。また、羊水過多では、胎児先進部が羊水腔内で浮動しているため、先進部と子宮壁の間の隙間に臍帯が入り込むことで起こりやすい。週数の早い切迫早産や頸管無力症の胎胞脱出症例は、胎児に対して相対的に羊水腔が広い状態であるので起きやすい。
医原性に臍帯下垂・脱出が起きることも知られており、内診、人工破膜、頸管拡張のためのメトロイリンテルの使用など、胎児先進部が上方へ持ち上げるよう操作には注意を払う。大容量のメトロイリンテルの方が臍帯下垂・脱出のリスクが高くなるが、ミニメトロでもリスクがないわけではない。
臍帯脱出は、腟鏡診、内診によって臍帯を直接観察することで診断するのに対し、臍帯下垂は、経腟超音波での診断される場合が多い。破水前に胎児の前羊水の部分に臍帯のフリーループが存在すれば臍帯下垂と診断できるが、分娩期には、あまり経腟超音波を施行しないことから、内診で何かを触れたときに疑われ、腟鏡診や経腟超音波で明らかになる場合もある。経腟超音波で臍帯の位置を確認する習慣をつけておき、臍帯脱出を起こす前の臍帯下垂の状態で発見することが重要である。
臍帯下垂は、自然に整復される場合もあるが、経過観察していても下垂した臍帯がかわらないときは、帝王切開術が考慮される。特に頭位の症例では、骨盤位などに比べて胎児の頭蓋骨によって、より強い圧迫を受けやすいので注意が必要で、連続的な胎児心拍モニタリングをすべきである。
臍帯脱出が起きてしまった場合は、児の先進部と産道との間に挟まった臍帯が急激に圧迫され、胎児機能不全となるので、緊急帝王切開を行う。可能な施設では超緊急帝王切開(Grade A帝王切開)の適応となる。緊急帝王切開による発見から児娩出までの時間が長くなると(20分以上)、予後が悪い事例が多くなるため、速やかに娩出をすべきである。帝王切開の準備や移動の間には、臍帯に触れないように内診指で胎児先進部を押し上げて隙間を作る児頭挙上を行うことや、胸膝位をとらせる。
脱出臍帯の用手還納は、臍帯に触れることで臍帯圧迫が起きるだけでなく、臍帯の血管攣縮を惹き起こすため、行ってはならない2。臍帯脱出時の胎児心拍数低下は、臍帯の圧迫によるだけではなく、脱出臍帯の温度が下がることによって起きた血管攣縮に起因するため、待機しても改善の見込みはないと考える。