35.ジャンプアップ11(宿題C―2つの重要なこと)

 今回も、ステップアップ12で提示したCTG(宿題C)を供覧する。図説CTGテキスト(メジカルビュー社)に収載された謎多い症例だ。

1.判読してください(図1)

 30歳、1妊0産(初産婦)。陣痛開始4時間を経過し、子宮口3cm時点のCTGである。

 判読するまでもなく、胎児は健常である。

 一番初めと4番目の一過性頻脈の後(↓)に、一過性徐脈のような波形があるが、有意なものではない。本症例のように、たまに一過性頻脈直後にわずかな一過性徐脈が出現することがある。胎動により酸素消費量が増したか、胎児が少し動きすぎて疲れたのか分からないが、いずれにしろ心配する波形ではない。

 この後、妊婦はトイレに行くため、モニターをはずした。

2.帰室後のCTG(図2)

 帰室後(36分後)再装着したCTGである。一体何が起こったかのか?

 内診したところ子宮口は全開大し、児頭は排臨していた。

 このCTGは2つの重要なことを教えてくれる。

1)フリードマン曲線を見直すこと(図3)

 内診したところ子宮口は全開大し、児頭は排臨していた。

 近年、フリードマン曲線が見直されている。フリードマン曲線は60年以上前に、半数が吸引・鉗子分娩など異常分娩出産である500名のアメリカ人を対象に作られたものだ。

 実際、自然分娩のみを対象にした我々の検討では(文献)、いわゆる加速期,減速期がなく、子宮口の開大は4-5 cmからより急峻な加速期を経て、一気に全開大に至る。初産婦で子宮口3 cmであれば、通常、トイレや歩行は問題無い。しかし、この症例のように急速に分娩が進行することがある。トイレに行きたくなるのはその兆候であったのかもしれない。

(文献:Inde Y, Nakai A, Sekiguchi A, Hayashi M, Takeshita T. Cervical Dilatation Curves of Spontaneous Deliveries in Pregnant Japanese Females. Int J Med Sci. 2018 Mar 9;15(6):549-556)

2)①と②は別人の心拍数記録であること(図4)

 帰室後のCTGの①部分の心拍数は100bpmの徐脈、基線細変動は26-30bpmで増加してるが、②部分の心拍数は80-90bpmの頻脈、基線細変動は10bpmで中等度である。①と②は別人の心拍数記録ではないだろうか。

 トイレに行く前と後では、同じ助産師がモニターを装着している。直前の記憶をたどり、同じ位置にプローブを装着したとすればどうだろう。児は分娩の進行とともに下降する。心拍聴取の位置がずれる可能性がある。現に①はインクが滲んだようで装着不良を思わせる。

 しかし、それだけではない。①と②では基線や基線細変動が全く異なる。①は母体心拍の混入の可能性がある。

 しかし、胎児が急速に下降したため、位置がずれて、母体心拍を聴取していたとする私の説は、カンファレンスでは誰にも認めてもらえなかった。そんな私に、救いの手が差し伸べられたのは、次の週のカンファレンスであった。

 次回に続く。