36.ジャンプアップ12(母体心拍数陣痛図)

  前回の続き。

 翌週のカンファレンスでまたもや不可解なCTGが供覧された。

1.97のCTG?(図1)

 33歳、2妊1産。妊娠38週、分娩まで30分間のCTGである。

 分娩20分前から軽度変動一過性徐脈が連続して出現し、10分前からインクが滲んだような記録になり、心拍数基線がわずかに低下しながら出産に至っている。

 概ね問題のない出産直前のCTGで、児も3638gでアプガースコア1分7点、5分9点と健常であった。しかし、臍帯動脈血ガスが、何とpH6.97と極めて低値であった。

 分娩直前には、変動一過性徐脈や心拍数の低下が、しばしば出現する。分娩が良好に進行していれば、医療介入することはない。この症例もそのはずであった。しかし、臍帯動脈血は極めて低値で、現場は驚愕した。様々検証したが、ガス分析装置の異常や採血時の不手際は無いようだ。

 この理由を説明できるであろうか?答えはこのCTGの中にある。

2.母体心拍数陣痛図?(図2)

 同じCTGの最後の部分を示す。

 後半の波形(②)は100%母体心拍の記録である。なぜなら、児は(↑)印のところで、出生している。その後、子宮収縮の記録はフラットになっているが、約2分間、出生前と同様の心拍波形が記録されている。したがって、この心拍数波形は胎児のものではない。

 前半、心拍数基線は150 bpmで、軽度の変動一過性徐脈が出現していたが、①部分で、基線が130-140 bpmにシフトしている。同時に基線細変動もインクが滲んだように不明瞭な増加を呈している(②)。

 おそらく、分娩の進行と伴に胎児が下降し、プローブがずれたのであろう。では、胎児心拍数はどうであったか。もちろん正しい記録がなく、判然としないが、図中③の箇所に散見される60 bpmあたりのノイズが、そうであったのかもしれない。軽度の変動一過性徐脈の後、出産までの10分間、高度な徐脈に陥っていたとすれば、pH 6.97を説明することができる。しかし、現場はそれに気づかず静観するしかなかったのである。

3.母体心拍の特徴(図3)

 過去に報告された典型的な母体心拍数を示しておく。典型的な母体心拍数陣痛図の特徴は2つだ。インクが滲んだような基線細変動の増加陣痛に伴う緩やかで大きな一過性頻脈である。

 前者の理由は明らかではない。プローブと腹壁の微小動脈や深部の大動脈との距離やプローブ自身の感度が関係する(のであろうか)。

 後者は分かりやすい。収縮の痛み刺激が母体の交換神経系を刺激するためで、子宮収縮に合わせた緩やかで大きな一過性頻脈が出現する。分娩第2期では痛みや疲労により、母体心拍数も胎児心拍数なみに頻脈になっている。

 母体心拍の混入は、分娩経過中いつでも起こりうるため十分注意して頂きたい。基本的に胎児心拍数基線は突然スキップして移動せず、連続性をもって変化する。また、インクが滲んだような基線細変動は装着不良か母体心拍の混入なのである。これらの波形が観察された場合、母体の脈拍を計り、CTGに記録される心拍数と比較し、胎児か母体のいずれであるかを判断し、プローブの位置を修正しなければならない。