39.ジャンプアップ15(悩ましいCTG)
悩ましいCTGをご覧いただく(図説CTGテキスト アドバンス,メジカルビュー社から引用)。
1.判読してください(図1)
39歳、1妊0産。IVF-ETにて妊娠成立し、順調に経過していた。
上段は、妊娠37週、前駆陣痛にて来院した際のCTGである。CTGの装着時、母体の仰臥位低血圧症候群などにより一過性徐脈を呈することがある。しかし、この一過性変動は装着後20分程度を経た時点のものだ。下段はその後のCTGである。
判読し、対応して下さい
2.判読結果(図2)
上段、来院時のCTG(A)は心拍数基線140bpm、基線細変動10bpm(徐脈前)、20bpm(徐脈後)、高度遷延一過性徐脈で、レベル4になる。
下段左(B)は、心拍数基線130bpm、基線細変動10-15bpm、一過性頻脈があり、判読するまでもなくレベル1。
下段右(C)は、軽度遷延一過性徐脈(レベル3)が出現し、その後、心拍数基線(140bpm)と基線細変動(15bpm)がわずかに増加している。
ちなみに(↓)の心拍低下は15bpm以上あるが、持続が15秒未満で、有意な変動ではない。(A)、(C)は、心拍数の変動がいずれも急速で、典型的な圧変化で、いずれも持続が長く、遷延一過性徐脈である。
問題は徐脈回復後の心拍数基線と基線細変動である。(A)では細変動がわずかに増加(①)し、(C)ではサイナソイダルパターンあるいはチェックマークパターン(②)とも取れる波形が出現している。これらは胎児低酸素血症を想起する波形で、臍帯圧迫であっても要注意だ。サイナソイダルパターンと判読すればレベル5となる。
対応は原因検索と分娩経過の評価である。
3.一過性徐脈が持続する(図3)
内診では、子宮口2cm開大、展退30%、児頭下降度SP−3であった。
経腹超音波検査では図3の如く、臍帯は胎盤側方に付着し、付着部から15-20cmの部分では過少捻転(乏捻転)であった。臍帯血管は、ワルトン膠質と適度な捻転があることで、外力から守られる。臍帯過少捻転では外力に弱く、わずかな臍帯圧迫でも、臍帯血管は容易に障害される。したがって、前ページの遷延一過性徐脈は臍帯過少捻転による臍帯因子と推察される。
サイナソイダルパターン(あるいはチェックマークパターン)様の波形が持続すれば深刻である。遷延一過性徐脈のたびに体位変換し、輸液も行なっている。
さて、どう対応するか?
4.引き続くCTGと対応(図4)
超音波検査終了後のCTGを示す。正常波形(D)と異常波形(E, F後半)が繰返し出現している。
サイナソイダルパターン(あるいはチェックマークパターン)様の波形は消失したが、依然不安定である。超音波検査後、子宮収縮が徐々に強まり、陣痛発来と判断し、(F)では頻回収縮になっていた。
(F)後半の遷延一過性徐脈後、再度内診するが、所見は変わらず、現場は経腟分娩困難と判断した。臍帯付着部の臍帯過少捻転(乏捻転)が、経腟分娩に耐えられないということだ。
緊急帝王切開により、2622g 男児、アプガースコアー1分9点、5分9点、pH 7.335と健常な児を出産した。臍帯は胎盤付着部から20cm程度捻転がないものの、胎児側ではある程度捻転がある部分的な過少捻転(乏捻転)であった。臍帯の捻転は必ずしも均一ではなく、しばしば、こうした不均一な捻転に出会う。
より早期の帝王切開を求める声もあるかもしれないが、現場が辛抱し経過観察したのは、あまり深刻な波形に見えなかったからかもしれない。
とても悩ましいケースであった。