4.インフォームド・コンセント補講(宗教的輸血拒否と医療ネグレクト)
はじめに
前回のゼミナール3では、インフォームド・コンセントの趣旨について概説するに際し、宗教上の信念による輸血拒否(成人)の事例をご紹介しました。このような宗教的輸血拒否への対応を考えるとき、成人ではなく未成年・児童の場合についても目配りをしておく必要があります。すなわち、一部の宗教を信仰する保護者が監護する児童について、医師が輸血を必要と判断しているにもかかわらず、その保護者が宗教教義を理由として児童への輸血の実施に同意しない、などの事例があり、その対応に苦慮する場合があり、産婦人科領域では、このような事例に遭遇することは多くはありませんが、緊急の対応が必要となる場合がありますので、本講において補足しておきます。
医師が児童に必要と判断する輸血等の医療を保護者が受けさせないこと=ネグレクト・心理的虐待
まず、厚生労働省は、医師が児童に必要と判断する輸血等の医療を保護者が受けさせないこと(輸血を拒否する旨の意思表示カード等の携帯を強制することを含む。)は、ネグレクトや心理的虐待に該当するものであると明示しています(令和5年3月31日事務連絡、厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課虐待防止対策推進室)。
保護者が児童に必要な医療を受けさせないことは、いわゆる「医療ネグレクト」であり、とりわけ輸血については、重大な児童虐待事案に該当し得るものです。
医療ネグレクトを疑う場合は児童相談所に相談を
宗教の信仰等を背景とする場合も含め、児童に対し医師が必要と判断する医療行為の実施に保護者が同意せず、児童の生命・身体の安全確保のため必要がある場合等いわゆる医療ネグレクトの場合には、児童相談所に可及的速やかに通告・相談することが肝要です。
児童相談所長は、児童の生命・身体の安全確保のため緊急の必要がある場合等には、児童福祉法に基づき、親権者等の意思に反しても医療行為への同意等の対応をすることができます。
臨床現場において、医療ネグレクトに該当するのではないかと疑う事例に遭遇した場合には、消極的な対応をとることなく、児童の生命・身体の安全確保を最優先することを心がけ、速やかに児童相談所に相談してください。