4. 研究倫理 施設内倫理委員会と患者の同意
産婦人科医を含むあらゆる研究者は、学術研究が社会からの信頼と負託の上に成り立っていることを自覚し、良心と信念に従い誠実に行動しなければならないのは当然のことである。さらに、研究者である以前に我々は医師であり、ヒポクラテスの誓いにあるように万が一にも患者に被害を与える可能性のあることをなしてはならない。ヘルシンキ宣言ニュルンベルク宣言にみるように、第二次大戦後いかなる場合でも患者の救命や全身状態の改善、機能回復は科学的真理探究に優先するのである。
このような医療側のポリシーを十分に患者や家族に説明したうえで、医学研究に必要な情報収集を行うことについて納得がゆくまで説明する必要し、同意書を貰う必要がある。もちろん、拒否しても何の不利益もないことや中途撤回が可能であることを説明する。これに先んじて、研究計画書を提出して研究内容が医学の進歩を図る上で妥当なものであるかどうかを直接利害関係のない同僚科学者に判断してもらう必要がある、これが施設内倫理委員会である。研究はこれがそろったうえで初めて開始できる。これに加えて、厚生労働省などの公的機関から研究費を得ている場合は国の指針に従わなければならない。すなわち 厚生労働省からは「厚生労働科学研究に関する指針」が定められており、これを遵守しないと、改善指導,資金提供の打ち切り,研究費一部または全額の返還、競争的資金等の交付制限等の措置を受けることがある。さらに、毎年度終了の都度、研究成果と決算の報告が義務付けられている。
特にヒトを対象とする研究では、平成17年から新たに施行された「個人情報の保護に関する法律」(平成15年法律第57号)の趣旨を踏まえた指針等の見直しがあり、違反があった場合には補助金の返還、補助金の交付対象外(最大5年間)とする措置を講じられることがある。 さらに、研究者の所属機関独自の内規や委員会承認を必要とすることがあるので、必ず事務方の職員に確認する。
現在、以下の指針について、自らの研究が抵触しないかを実験計画の時点で確認する必要がある。
1 人を対象とする医学系研究に関する倫理指針
2 ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針
3 遺伝子治療等臨床研究に関する指針
4 手術等で摘出されたヒト組織を用いた研究開発の在り方
5 厚生労働省の所管する実施機関における動物実験等の実施に関する基本指針
6 異種移植の実施に伴う公衆衛生上の感染症問題に関する指針
7 ヒト受精胚の作成を行う生殖補助医療研究に関する倫理指針
8 疫学研究に関する倫理指針
9 臨床研究に関する倫理指針
10 ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針
特に、1,2,3,7は平成29年度に一部あるいは全部が改正されており必ず確認する。
研究組織内に倫理委員会があるところではそこで審査を受けることになるが、小規模医療施設でも病院長,理事長、事務長、師長、顧問弁護士など複数専門職の審査承認を受けることが望ましい。承認を得た場合は、必ず日付と通し番号のついた申請書と許可書を残しておく。