4.Rhガイドライン

Rh(D)陰性妊婦の取り扱いについて:産婦人科診療ガイドライン産科編2017の改訂を踏まえて

平成29年4月に産婦人科診療ガイドライン産科編2017が発刊された。CQ008-2 の「Rh(D)陰性妊婦の取り扱いは?」の改訂されたAnswerを図1に示す。今回の改訂では、図2に示す3点において主要な変更が行われたので、その要点を解説する。

図1.産婦人科診療ガイドライン産科編2017 
CQ008-2  Rh(D)陰性妊婦の取り扱いは? 
Answers
1. 妊娠28週前後および分娩後に抗Rh(D)抗体価の有無を確認する.(B)
2. 妊婦が抗Rh(D)抗体価陰性の場合、以下の検査・処置を行う.
 1) 妊掻28週前後に母体感作予防目的で抗D免疲グロプリンを投与する.(A)
 2) 児が Rh (D)陽性であることを確認し、分娩後72時間以内に感作予防のため 母体に抗D免疫グロブリンを投与する. (A)
 3) 感作予防のために抗D免疫グロプリンを以下の場合に投与する.(B)
   妊娠7週以降まで児生存が確認できた自然流産後、妊娠7週以降の人工流産・異所性妊娠後、腹部打撲後、妊娠中の検査・処置後(羊水穿刺、胎位外回転術等)
3. 抗Rh (D)抗体陽性の場合、妊娠後半期は4週ごとに抗Rh (D)抗体価を測定する.(B)
4. 抗Rh(D)抗体価が高値の場合、妊娠後半期に1~2週ごとに超音波検査で胎児水腫および胎児貧血について評価する.(B)
図2.2017年版での改訂のポイント
1. 抗Rh(D)抗体検査の時期は、検査が陰性の場合、妊娠初期、妊娠28週および分娩後である。
2. 抗Rh(D)抗体陽性の場合、児の溶血性貧血の既往がなく、かつ抗体価が高値でなければ、妊娠後半期は4週ごとに抗Rh(D)抗体価を測定する。
3. 抗Rh(D)抗体価が高値の場合、または前児に溶血性貧血の既往がある場合、妊娠後半期に1〜2週ごとの超音波検査で胎児水腫および胎児貧血について評価する。

1. 母体における抗Rh(D)抗体の測定時期

2014年版
1. 1) 少なくとも妊娠28週前後かつ分娩前に抗Rh(D)抗体陰性を確認する。(B)
2017年版
1. 妊娠28週前後および分娩後に抗Rh(D)抗体の有無を確認する。(B)

改訂のポイントとその理由
 母体血での抗Rh(D)抗体の評価のタイミングについての変更が行われた。
 日本人では、母体Rh(D)陰性でも、胎児はRh(D)陽性が大部分であり、Rh不適合の可能性を考慮して管理する必要がある。妊娠初期血液検査で間接クームス試験(不規則抗体スクリーニング)を行い、抗Rh(D)抗体陰性の妊婦に対しては、その後に抗Rh(D)抗体の有無を確認する時期として、妊娠28週前後および分娩後を推奨している。従来の分娩前から分娩後に変更されている。
妊娠初期の間接クームス試験陰性の妊婦のその後の検査時期に関しては、ACOG Practice Bulletin No. 75では、妊娠28週で予防的な抗D免疫グロブリンを投与する前と分娩後が推奨されており1)、今回の改訂はこれに則したものになった。分娩後の検査によって妊娠中の感作の確認が確実に行えるようになること、検査に漏れが少なくなることのメリットも考えられる。
なお、感作のリスクの上昇と関連する事象が妊娠中に生じた場合、例えば羊水穿刺などを行う際には抗体価測定を行って事前の感作の有無を確認したうえで検査を行い、引き続き抗D免疫グロブリンを投与するのが望ましい。検査による感作を明確にするためでもある。
 妊娠経過の中で妊娠28週以降は感作のリスクが上昇するといわれている。その時期に、抗Rh(D)抗体の有無を確認した後に抗D免疫グロブリンを投与することで、以降の感作を予防する。抗 D 免疫グロブリンの半減期は約 24日とされ、妊娠中に投与した後の間接クームス試験の結果に影響を与えることがある。例えば、妊娠 28 週に抗 D 免疫グロブリンを投与した妊婦の 15~20% は分娩時に低値ではあるが抗Rh(D)抗体陽性となる(通常 4 倍以下)。
分娩時には児のRh血液型の検査と母体の間接クームス試験を行い、児がRh陽性の場合には72時間以内に抗D免疫グロブリンが投与される。妊娠中に抗D免疫グロブリンを投与されていて分娩直後の抗Rh(D)抗体検査で弱陽性の褥婦に対しても抗D免疫グロブリンを投与する必要がある。抗Rh(D)抗体が高力価で陽性の場合には感作の可能性があると判断する。この場合には、抗D免疫グロブリンを投与しても感作の解消は期待できない。

2.妊娠28週前後に母体感作予防目的で抗D免疫グロブリンを投与することについての推奨度が上昇

2014年版
1.3) インフォームドコンセント後、妊娠28週前後に母体感作予防目的で抗D免疫グロブリンを投与する。(B)
2017年版
1.3) インフォームドコンセント後、妊娠28週前後に母体感作予防目的で抗D免疫グロブリンを投与する。(A)

改訂のポイントとその理由
 妊娠28週頃の抗D免疫グロブリン投与の推奨度が上昇した。ACOG Practice Bulletin No. 4では妊娠28週の抗免疫グロブリン300μgの単回投与による感作予防を勧めており、米国での推奨度はLevel A.( Recommendations are based on good and consistent scientific evidence)である2)。本邦でも妊娠28週前後での抗D免疫グロブリン投与が保険収載されたこと、我が国でもその実施が普及していると考えられることから、推奨度Aとして強く推奨することになった。

3. 抗Rh(D)抗体陽性の場合、妊娠後半期は4週ごとに抗Rh(D)抗体価の推移を評価することになった。

2014年版
2. 抗Rh(D)抗体陽性の場合、妊娠後半期は『2週ごと』に抗Rh(D)抗体価を測定する。(B)
2017年版
3. 抗Rh(D)抗体陽性の場合、妊娠後半期は『4週ごと』に抗Rh(D)抗体価を測定する。(B)

改訂のポイントとその理由
 妊娠初期の検査で抗Rh(D)抗体陽性の場合や妊娠中に抗体が陽性化した場合は、ハイリスク妊娠として厳重な管理が必要であり、抗体価の推移を観察する必要がある。一次施設の場合にはハイリスク妊娠として周産期センターなどの施設に周産期管理を依頼することも考慮する。抗Rh(D)抗体価は施設ごとにばらつきがあり、一概にその評価はできないものの、8〜32倍以上の場合に高値と判断されることが多い。ACOG Practice Bulletin No.75では抗体価が高値でなければ、その後の抗体価の測定は、4週に1回程度行い、抗体価の上昇がないことを確認することとしている1)。この間隔については2〜4週とする報告3)もあるものの、ACOGの基準にあわせて、ガイドラインの記載は4週間間隔となった。
また、前回妊娠で胎児や新生児に溶血性貧血を起こした既往のある妊婦における抗体測定は今回の胎児の病態を反映しないため、抗体価を指標にした評価は行わず、抗体価が高値の場合と同じ管理とする1)。

4.抗Rh(D)抗体が高値もしくは上昇する場合、1〜2週ごとに超音波検査を行うことになった。

2014年版
3. 抗Rh(D)抗体価上昇が明らかな場合、『胎児貧血や胎児水腫の兆候』について評価する。(A)
2017年版
4. 抗Rh(D)抗体価が高値の場合、妊娠後半期に1〜2週ごとに超音波検査で胎児水腫および胎児貧血について評価する。(B)

改訂のポイントとその理由
 抗Rh(D)抗体陽性妊婦における管理方法がより具体的に示された。抗Rh(D)抗体価8〜32倍以上(施設によって異なる)は、高値と判断される。そして、高値を示した場合、あるいは既往妊娠に児の溶血性貧血がある場合、妊娠後半期には1〜2週ごとに胎児貧血を評価することが推奨された。評価開始の時期は、16〜18週以降とする報告もある3)。胎児貧血の評価方法について、超音波パルスドプラ法を用いた胎児中大脳動脈最高血流速度(MCA-PSV)計測値が胎児貧血の推定に用いられ、その方法が明記されている。胎児MCA-PSV値の評価は、週数に応じたMCA-PSVの中央値に対するMoM(multiples of the Median)値(www.perinatology.comまたは、参考文献4を参照)を利用して行い、MoM値が1.5以上の場合は中等度以上の貧血があると評価する。その手法の感度は100%、偽陽性率は12%であったが、正確な測定が必須であり、十分なトレーニングと臨床経験が必要とされる1,4,5)。また、34〜35週以降は偽陽性率が上昇すると報告もあり、その判断には注意が必要である1)。さらに、超音波検査による胎児水腫兆候(胎児に腹水、胸水、心嚢液、5mm以上皮下浮腫のうち、少なくとも2つ以上の貯留を認める状態)の検出も重要であるが、胎児貧血がかなり重症にならないと出現しないため、まずは胎児貧血の評価が重要である。なお、抗Rh(D)抗体による胎児水腫の約半数は、妊娠18〜34週に発症し、残りの半数は妊娠34週〜正期産期に発症する6)。
なお、このような管理を要するハイリスク妊婦では、緻密な周産期管理を要するため、このような管理に習熟していない施設にあっては、より高次の施設での周産期管理を考慮する必要がある。
 最後に、今回論じた変更点を加味した、Rh(D)陰性妊婦の取り扱いの図3に示す。

参考文献
1) American College of Obstetricians and Gynecologists: ACOG Practice Bulletin No. 75: Management of alloimmunization during pregnancy. Obstet Gynecol. 2006: 108: 457-464
2) American College of Obstetrics and Gynecologist: ACOG Practice Bulletin No.4: Prevention of Rh D alloimmunization (May 1999). Int J Gynaecol Obstet. 1999: 66: 63-70
3) Moise KJ Jr, et al.: Management and prevention of red cell alloimmunization in pregnancy: a systematic review. Obstet Gynecol. 2012; 120: 1132-1139.
4) Mari G, et al.: Noninvasive diagnosis by Doppler ultrasonography of fetal anemia due to maternal red-cellalloimmunization. Collaborative Group for Doppler Assessment of the Blood Velocity in Anemic Fetuses. N Engl J Med. 2000; 342: 9-14
5) Mari G, wt al.: Society for Maternal-Fetal Medicine (SMFM) Clinical Guideline #8: the fetus at risk for anemia–diagnosis and management., Am J Obstet Gynecol. 2015; 212: 697-710
6) 宗田 聡, 佐村 修,監訳.ニューイングランド周産期マニュアル.東京;南山堂.p1106-1103