48.ジャンプアップ24(最終回?)
毎月更新するという無謀な計画で、CTGマイスターも丸4年間、48回目(CTG48)を迎えた。少しは、現場に役立つ情報を提供できたであろうか。甚だ心配である。
最終回(?)は、公益財団法人日本医療機能評価機構産科医療補償制度胎児心拍数モニターに関するワーキンググループから発刊された脳性麻痺事例の胎児心拍数陣痛図(波形パターンの判読と注意点.2014)より様々な要因が含まれたケースを紹介する。
なお、このケースに関しては、状況の解説にとどめ、手技の選択や対応についての評価は記さない。
1.過期妊娠を予防する(図1)
妊娠41週、過期妊娠予防のため、分娩誘発を目的に入院している。
頸管熟化を促す目的で入院当日はメトロイリンテルが挿入され、その際のCTGである。児は健常で、何ら異常がない。
分娩誘発には医学的と社会的な適応がある。社会的適応は原則、患者、家族が希望し、その要約を満たした場合に行われる。一方、医学的適応は母児を保護するため、妊娠の中断が必要と医師が判断した場合に行われる。過期妊娠は胎盤機能の低下などから、児の予備能力を奪う。したがって、過期妊娠を予防するために行われる分娩誘発は、明確な医学的適応となる。
子宮収縮薬を使用する条件の一つに、頸管の熟化がある。頸管が熟化していない場合、メトロイリンテルや吸湿性頸管拡張材が用いられる。
子宮収縮薬や頸管拡張操作の適応と要約はガイドラインを熟読し、厳守していただきたい。
2.翌日のCTG(図2)
翌日のCTGを示す。様子が変わっている。
産科医療補償制度原因分析委員会では、CTG上のAは遅発一過性徐脈、Bは変動一過性徐脈と判読している。母体体温は37.7度、白血球は14300であった。
頻脈と高度遅発一過性徐脈と判読すれば、レベル4である。母体体温や白血球数は、臨床的絨毛膜羊膜炎の定義こそ満たさないが、感染症を想起させる。また、CTG上、すでに子宮収縮が確認されているが有効陣痛であったかどうか記録はない。
実際、現場ではこのあと子宮収縮薬が投与される。
3.子宮収縮薬開始(図3)
オキシトシンが開始された。しかし、徐脈が発生し、投薬は、その約10分後に中止される。
このケースでは、過期妊娠による胎盤循環不全、すなわち絨毛間腔の慢性的な低酸素状態がベースにある可能性がある。また、遅発一過性徐脈が繰り返し出現していることから、胎児はすでに投薬前から低酸素血症であった可能性が高い。オキシトシンを用いれば、子宮収縮の増強により絨毛間腔への母体血流入がさらに減少し、胎児の自律神経系が破綻することになる。
4.人工破膜!?(図4)
オキシトシン中止後、約1時間を経て人工破膜が行われた(図4上段)。羊水は混濁していた。上段のCTGでは、高度遅発一過性徐脈が繰り返している。
分娩促進の方法としての人工破膜に、明確な効果を示すエビデンスはない。また、母体が羊水に暴露することで、稀ではあるが子宮型羊水塞栓を引き起こすリスクになり、私の施設では分娩第1期の人工破膜は原則行なっていない。
羊水混濁は10%以上の胎児で観察され、38週以前では少なく、42週を越えると20-30%に増加する。かつて、羊水混濁は胎児機能不全の兆候とされていたが、必ずしも分娩中の低酸素状態に関連せず、生理的な成熟や、臍帯圧迫による迷走神経反射に関連すると推察されている。迷走神経刺激は腸管の蠕動運動を亢進させる。
図4下段のCTGでは、繰り返す高度遅発一過性徐脈の心拍数の低下時間が延長しだしている。オキシトシンを中止してから2時間以上が経過していた。
5.分娩の神様(図5)
繰り返す遅発一過性徐脈が、遷延一過性徐脈に移行すると比較的短時間で胎児の自律神経系が破綻する。 同時に全開大になり徐脈が持続している。しかし、突然、分娩の神様が降臨したのか、心拍数基線が改善する(↓印)。↓印以降の心拍数図は、2つの特徴を兼ね備えている。インクが滲んだような基線細変動の増加と陣痛に伴う緩やかで大きな一過性頻脈である。
全開大で心拍数基線が回復したと判断した現場は、そのまま経過を静観することになる。
6.分娩(図6)
引き続くCTGは、様々な表情を見せている。上段左は典型的な母体心拍数波形で、右は母体と胎児の心拍が混在している。下段の児娩出後にも、分娩前同様の心拍数記録が確認される。分娩の神様が降臨した訳ではなかった。
臨床的絨毛膜羊膜炎、子宮収縮薬や頸管拡張操作の適応と要約、CTGの判読、羊水混濁、母体心拍混入。脳性麻痺は、多様な要素が重なり発生する。
全ての医療従事者が全ての出産に、心して対応することを願うばかりである。
7.Congratulations!
Learning curveをご覧いただきます(図7)。
おめでとうございます!みなさんは既にCTGマイスターです。その知識と判断力は、是非、現場で生かして下さい。ご自身の施設を一つにまとめ、チームの中で、指導的な立場で、ご活躍いただければと思います。
毎月お付き合いいただき有難うございました。
私は少し休暇をいただくことにします(図8)。間違っても、日本産婦人科医会事務局担当者にシリーズ継続の要望などは行わないようにお願いします。
最後に、図説CTGテキスト、ならびに図説CTGテキストアドバンスの引用を快くお許しいただいたメジカルビュー社に深謝いたします。(了)