5. 参考文献の検索と管理

本会会員の方々は、日々の診療や研究のため様々な文献に当たっておられることと思う。昔は、図書館に行って分厚いIndex Medicusや医学中央雑誌を調べて、書棚から該当雑誌を探し、コピーをとる作業から始まった。さらに製薬会社のMR諸氏にお願いし、製品関連(そうでないことも)の関連文献を探してもらうこともあった。当然ながら、提供する会社に都合の良い文献ばかりになるし、自分でやると見落としが生じ得る。インターネットの普及と医科学検索サイトの普及により、このような手間は一気に解消した。さらに、多くの論文がPDFでダウンロードできるために図書館自体のありかたが変わってきている。
さて、苦労して(あるいは簡単に)手に入れた論文をいかに読んで整理するか。
筆者が研修医から大学院のころはA5カードに書誌情報と要点を書き込んでいた。今でも学位論文を書いていた頃から日産婦でシンポジストを務めた頃までの修業時代のファイルがある。もったいなくて捨てられないが、これは単なるノスタルジーである。いずれにせよ、場所は取るが、筆者は手に入れた論文はいったんプリントアウトする。そしてざっと見て仕分けする。パソコン上のファイルの時点で後述の文献管理ソフトウエアに入れておくと後が楽である。

1 まず、速読法
読者は自分の英語の読解速度をご存じだろうか。普通の欧米人で毎分200語,教養ある欧米人で5-600語といわれている。筆者が学部学生や教室の若手でみてみると日本人で20−30語が普通である。しかし、以下の点に留意するとすぐ倍になる。1(頭の中でも)音読しない 2 読み返さない 3 和訳しない 4 辞書を引かない。我々は受験英語の洗礼を受け、漢文の読み下しに慣れているためどうしても訳して正しい日本語にしたくなるが、論文は意味が取れればよいので英文の流れに身を任せればよい。辞書については、知らない単語でどうしても必要な場合は致し方ないが、速読の時点では文脈から推測して飛ばしてゆく。ご自身の専攻領域(腫瘍でも周産期でも)であれば、むしろ一般の新聞や評論よりも知らない単語は少ないはずである。すこし練習すると、毎分100−200語は簡単に達成できる.

2 次に仕分け
① まず、タイトルとアブストラクトの最後数行を読む。面白い→②へ つまらない→捨てる
② アブストラクト全体と, 図表,本文の最後の結論を読む。面白い→③へ つまらない→捨てる
③ 全体を通し読みする。イントロとデイスカッションはトピックセンテンスを中心に流れをつかむ。リザルツはしっかり、マテメソは程々に。面白い→④へ つまらない→☆一つつけて一定期間保存(3ヶ月くらい)
④ まじめに全部読む.特に追試したい場合や、反論したい場合はマテメソも丁寧に読む.面白い→☆☆ まあまあ→☆ 非常に面白い☆☆☆(永久保存)

3 赤青鉛筆の使い方
学生はラインマーカーを愛用するが、眼に優しいのは色鉛筆である.製造元によって硬さや色味が微妙に違うが、筆者は三菱鉛筆の六角赤青鉛筆を愛用している.上記の速読過程で、大事なところ(全体の20%以下)を赤で,引用したいところを青でマーキングする.但し、そのままコピペすると盗用になるので、絶対にパラフレージング(書き換え)する.読んでいておかしいところや反論したいところは黒(緑でも紫でも)で下線を引くか欄外にコメントを残す.
通読したら1ページ目の上に3行以内(これが大事)で要点を記入する。

4 文献の整理
こうして文献を集めると、だんだん溜まってくる.いくら大きな本棚のある広い家に住んでいても限界があるので一定期間読まないものは捨てなければならない.コピー(プリント)した論文の整理は、100円ショップの透明ファイル(欲張らず厚すぎない方が良い)に入れてゆく.ただ、耐久性に問題があることも多いので、懐に余裕があればコクヨやリヒトの製品を使う。
パソコンで,文献を管理するには昔からあるEndnoteが定番である.文献を検索しながら、自分のパソコンのファイルにドロップすることで書誌情報のみならず、PDFも入れることができるし、論文投稿にあたっては投稿先雑誌の要求に応じて、著者、論文、ジャーナルと号、ページなどの情報を様式を整えてくれるという優れものである。ただ、かなり高価であり自分のパソコンでしか使えないという制限がある.最近、非常に人気のあるのがMendeleyというソフトで、アカウントを設定することにより、クラウド上に自分のファイルを作り、複数のメンバーが共有できる.筆者の場合、プロジェクト毎にファイルを作り、共同研究者や教室員,院生とこれを共有することにより、地理的に離れていたり,直接会う時間が取れない場合でも「これは面白い(読んでおくように!)」という論文を渡すことができる.参考文献として整理する機能も、前出のEndnoteには劣るが、かなり充実してきているし、出先を含む複数のパソコンやiPad,スマートホンでも開けるので空き時間をつぶすのに便利である.何よりも、Mendeleyはタダなので学生や研修医に勧めやすい。