8. スタートアップ8(特殊な圧変化)

スタートアップ8(特殊な圧変化)

 一過性徐脈の心拍数減少が「急速」か、「緩やか」かは「圧変化」か、「低酸素」かと置換えることができる。しかし、例外がある。「緩やか」に低下する「圧変化」である。

1.特殊な圧変化(図1)

 分娩進行中の児頭が圧迫される場合も、臍帯圧迫同様の圧変化が起こる。子宮収縮に一致し、頭蓋内圧が上昇する。頸動脈洞の受容器がこれを感知し、副交感神経を介し心拍数を低下させる。しかし、血管が直接圧迫を受けるわけではなく、頭蓋内圧の変化はわずかなため、臍帯圧迫に比較し、さほど急速な心拍数減少にはならず、減少幅も少ない。
 CTG上、心拍数減少は比較的「緩やか」で、子宮収縮最強点と心拍数減少の最下点が一致し、早発一過性徐脈と呼ばれる。低酸素によるものではなく、圧変化による特殊な波形で、分娩進行に伴う生理的な変化と位置付けられている。

2.判読して下さい

1) 症例提示(図2)

 31歳初産婦。妊娠41週、陣痛発来後10時間を経過した分娩第2期のCTGである。子宮収縮に伴い心拍数が減少している。
 一過性徐脈は、低酸素か圧変化か?子宮収縮との関係は?

2) 判読(図3)

 心拍数基線140bpmで正常脈、基線細変動は6-7bpmで中等度だ。一過性頻脈はなく、一過性徐脈が出現している。30秒未満の経過だが、比較的緩やかに心拍数が減少している。子宮収縮最強点と心拍数減少の最下点が一致し(ミラー像とも呼ばれる)、波形は典型的な早発一過性徐脈である。
 ちなみに、早発一過性徐脈の場合、子宮収縮(陣痛持続時間)が60秒未満では、心拍数減少が30秒以上の経過をとることはなく、肉眼的(主観的)に「緩やか」であることを判読しなければならない。「30秒ルール」のウィークポイントのひとつである。

3) 子宮収縮の判読(図4)

 また、いずれ解説することになるが、この症例の子宮収縮には問題がある。お気づきであろうか?頻回収縮である。同様の症例のCTGを少し延長して示す。10分間に6回程度の子宮収縮が観察される。
 本邦に過強陣痛に関する明確な定義はなく、しばしばNICHDのガイドラインが用いられるが、その定義では「30分間の平均で、10分間に5回より多い子宮収縮を頻回収縮」と呼ぶ(Macones GA. Obstet Gynecol. 2008; 112:661-666)。しかし、NICHDの定義にも、過剰収縮の定義はなく、頻回収縮であっても自然陣痛と誘発、一過性徐脈の有無で対応は異なるとされる。