9.いまでしょ! 膜性診断

そもそもなぜ膜性診断が必要か?
多胎は、早産や胎児発育不全などのリスクが高い妊娠であるが、その中でも一絨毛膜性の場合は、さらにリスクが高くなる。よって、妊娠の早い時期に膜性を正しく決めることが重要である。一絨毛膜双胎では、双胎間輸血症候群(5~15%)、両児の差のある発育(5~10%),一児死亡(3~5%)など二絨毛膜双胎に比較して予後が悪い疾患の頻度が高い。また、何らかの原因で一児死亡に至った後の、残った児に対する管理や予後も膜性によって大きな違いがある。

超音波での膜性診断には初期の構造把握が重要
受精卵が分裂を繰り返して大きくなり、着床する頃の卵の表面にある細胞たちは胎盤になる可能性を有する絨毛膜を形成します。子宮内膜に着床し、そのなかで袋状に液体が貯留した胎嚢が形成されていきます。このころ(妊娠5週)の超音波検査で、絨毛膜は胎囊の外周に白く厚い線状の構造として描出されます(white ring)。
 妊娠6-7週になると、胎嚢のなかに胎芽を認めるようになります。心拍も確認できます。そのまわりを取り囲むように見えているのが羊膜です。羊膜の内側は羊水腔、外側を胚外体腔とよびます。
 妊娠がすすむにつれて羊膜はどんどん膨らみ、胎嚢(絨毛膜)の内側を裏打ちするように大きくなります。つまり、胚外体腔はどんどん狭くなっていくということです。一方、絨毛膜は全周、胎盤になる能力を有しているのですが、胎芽とつながっている付着茎(臍帯)の近くの絨毛膜のみが厚くなって胎盤となる。(過去セミナー参照)

超音波検査による膜性診断
1) 胎嚢の数をみる
胎嚢=絨毛膜ですので、胎嚢の数が絨毛膜の数となります。胎囊が確認できる時期(妊娠5 週以降)では胎囊が 2つ確認できれば 二絨毛膜双胎といえます。胎嚢が密着する前のこの時期は、最も簡単に二絨毛膜であることを診断できます。

2) 羊膜の数をみる
ひとつの受精卵が途中で一部分離してしまったのが、一絨毛膜双胎です。そして、一つの絨毛膜の中に、ふたつの胎芽がいて、それぞれが別々の羊膜に包まれているときが一絨毛膜二羊膜双胎となります。
しかし、一絨毛膜双胎には稀ではありますが、羊膜がひとつで、そのなかにふたつの胎芽が存在する一絨毛膜一羊膜双胎があります。それぞれの胎児が自由に動いて、臍帯同士が絡まってしまう(臍帯相互巻絡)状態になることがあり、あまり予後はよくなく、その診断には細心の注意を払う必要があります。
胎芽が確認できる時期(妊娠7 週以降)では、1 つの胎囊に 2つの胎芽が確認できれば 一絨毛膜双胎といえます。羊膜は胎嚢内に胎芽と羊水腔を囲う球状の薄い膜様の構造としてみえます。詳しく観察して、その羊膜(羊膜腔)の数で羊膜の数を決めます。ふたつ羊膜が分かれて見えれば、一絨毛膜二羊膜双胎といえます。しかし、早い時期では、薄い羊膜が確認しづらく、慌てて一羊膜と誤診しないようにしなければなりません。

週数がすすんだ場合の判断
妊娠週数の増加に伴い、子宮内の胎嚢同士や、胎嚢内の羊膜同士が膨らむことで、それぞれが癒合して、膜性診断が難しくなります。妊娠10週までには膜性を診断するのが望ましいとされています。
妊娠週数がすすんでしまった場合はどうするのかというと、ふたつの隔膜の起始部の形態、膜の厚さ、胎盤の数,児の性別などを考慮して推定するしかありません。

妊娠週数が進んでしまった場合の膜性診断

二絨毛膜双胎:隔壁が厚い、隔膜の起始部を確認して、厚く白い絨毛膜がなだらかに隔膜へ移行していればλ(ラムダ)サイン(矢印)と言い、二絨毛膜と考える。

一絨毛膜二羊膜双胎:薄い隔膜が絨毛膜から角をもって移行していればTサインと言い(矢印)、一絨毛膜二羊膜と考えます。

その他、性別が異性の時、胎盤が明らかに 別々な場所にあれば、二絨毛膜双胎とも言えます。これらでも診断が難しい場合は、臨床上は 一絨毛膜双胎として取り扱う(悪く見積もる)という考え方もあります。