序章
流産は妊娠22 週未満での妊娠中絶,すなわち胎児を娩出すること,または子宮内で発育せず心拍の見えない状態を示す.妊婦の高年齢化と共に流産率は上昇傾向となってきている.
早期流産の処置に関しても,以前は子宮内容が残らないようにキュレットを全周的に行い,ざらざらした感覚(Muskel Geraüsch)を触知するよう指導を受けたが,子宮頸管拡張後,胎盤鉗子とキュレットを用いて行う胎盤鉗子法(dilatation and curettage:D & C)から,子宮カニューレと吸引器を用いる吸引法(suction curettage),カニューレを挿入し,アスピレーターを取り付け,圧を開放し子宮内容を摘出する(MVA:Manual Vacuum Aspiration)が,子宮腔癒着や子宮内膜の菲薄化を防ぐ意味でWHO では推奨されるようになった.また感染性流産でなければ早期自然流産は自然排出か子宮内容除去術かの選択肢を説明し患者に選択してもらうインフォームド・ディシジョンを得る必要性が求められようになった.子宮頸管拡張法においてもコンブ科の海藻の茎根部を原材料としたラミナリアが品薄になったこともあり,他の合成素材から作られた拡張剤の使用法,注意点を知る必要がある.
後期流産に関しても,書類や手続き,児の扱いの再確認と,使用する薬剤・合併症についての対応,理解が必要と考えられる.
反復流産・習慣流産においても原因はさまざまであり,流産の週数により染色体異常の確率が高いのか他の要因の可能性が高いのかを推測でき,種々の原因を検査し,抗リン脂質抗体症候群と診断するにも,不育症患者の検査値(カルジオリピン抗体およびループスアンチコアグラント)が他の疾患の値と異なることが示されており,安易な低用量アスピリン投与を行わないよう注意する必要がある.
このように,流産という最も頻繁に遭遇する産科疾患に対して大きな変化を認識していただくよう,今回のテーマを選択した.