現在の女性はおよそ5人に1人が帝王切開で出産している.帝王切開既往妊婦の分娩方針は予定帝王切開とする施設も増えて,その割合はさらに増加傾向にある.分娩を扱う医療施設ならば一次施設でも必ず普通に行われ,研修医が最初に習う開腹手術の1つでもある.しかしながら,その手技は必ずしも容易なものではなく,適切に行わないと出血量が増えたり,児頭の誘導に手間取ったりと様々な危険と隣り合わせの手術である.

 帝王切開そのものの歴史は古いと考えられるが,子宮下部を横切開する方法は比較的新しく,1926 年にKerr らにより最初に報告された.それ以降,最適の手術を目指して改良がなされ,子宮内膜や子宮筋層の修復の話だけでも帝王切開瘢痕症候群や次回妊娠時子宮破裂の予防なども考えて子宮切開創の修復は連続縫合がよいのか単結紮縫合にすべきなのか,二層縫合が必要なのか,どのような運針や糸がよいのかなどの議論が多数展開されている.また最近では子宮下部のどこを切るか,bladder flap を形成するかしないか,すなわち膀胱より上を切るか膀胱を剝がして子宮下部を露出展開させた部分を切開するかなどの議論もある.もちろん緊急帝王切開の場合と予定帝王切開の場合では手技も大きく異なるし,前置胎盤や弛緩出血の場合の最新の対応法など帝王切開だけでも学ぶべきことは尽きない.

 今回の研修ノートNo.110 のテーマは「帝王切開 Q & A 私はこうしている」である.基本から最新のトピックまで様々な疑問に答える形で周産期分野の専門家にご記述いただいた.研修医だけでなく臨床医の方においても最新知識の整理となり,各施設での帝王切開のバージョンアップに貢献するものと考
える.本著が日本の周産期医療のさらなる進歩の一助になれば幸甚である.

 最後に,貴重な時間を割いて執筆にあたっていただいた諸先生方には深甚なる謝意を表したい.また,執筆・校正・編集などにあたっていただいた研修委員会の先生方,医会役員の諸君に深く感謝する次第である.

令和5年3月
会長 石渡 勇