序
早期流産の発生頻度は,15~20 %と報告されている.近年,初婚年齢が上昇し,やっと妊娠しても流産になることが多いだけに,日常診療では,流産頻度が20 年30 年前より,明らかに増えている印象さえある.それは,単に妊婦の高齢化によるものか,他に地球環境の変化によるものかは不明であるが,解明は今後の課題である.臨床の現場では,妊娠初期に,妊娠反応は陽性であっても出血が続く症例で,胎囊が子宮腔内に認められない場合は,流産か異所性妊娠かの鑑別診断は,いつの時代も問題となる.その場合の,経過観察の仕方と,異所性妊娠ではないことの確認に関して,本書に示す典型的所見を組み合わせながら注意深い観察が不可欠である.
また,妊娠22 週未満までに胎児死亡が確認されれば,後期流産と診断して,妊娠を終了する方向で対応する.問題は,妊娠22 週以前に,胎児心拍は正常に拍動しているが破水した症例の対応である.以前は,このように破水した場合は,その場で流産であると診断したが,今日では,感染の治療とコントロールが可能な場合が多く,経過観察して22 週以降まで生存させることが可能となった.しかし,早期早産となることが多いだけに,児の長期予後に関して,いまだに問題がないとは言えない.
このような場面での臨床的判断は,担当の産婦人科医と新生児科医とのチームで総合的に判断し,妊婦と夫には正確な情報を伝え,医師の方針に関して,2 人の了解と同意を得たうえで,対応することが求められる.
このように,流産は,初期であれ後期であれ,妊婦の予後と,新生児の予後に関係することもある重要な疾患である.
本書では,そのような観点から,我々産婦人科医が流産をどう考え,どう管理すべきかを,臨床経験の豊富な先生方に解説いただいた.若手の先生方の流産管理の参考としていただきたい.
ご執筆いただいた諸先生方には深甚なる謝意を表したい.また,執筆・校正・編集などにご尽力いただいた研修委員会の先生方,医会役員の諸君に深く感謝する次第である.
平成29 年12 月 会長 木下勝之