今回の研修ノートNo. 101 はNo. 100 に続き,記念号にふさわしく関心の高いテーマとして,婦人科がんに特化した「近未来」について,それぞれの専門家に記述いただいた.その内容は,がんの治療としての手術療法,放射線療法,化学療法,免疫療法の現在と未来,がん予防・検診の現在と未来,Oncofertility の現在と未来,婦人科がん治療後のヘルスケアについてである.いずれも,研究あるいは臨床の一線で活躍している医学者の記述である.
 それぞれの領域の現状と将来の展望を読むと,低侵襲で,治療効果は優れており,婦人科がん治療の確立を目指して,放射線医学,分子生物学,遺伝子工学,免疫学などの成果が記述されている.そして,その理論的背景をもとに,試みられている臨床研究のうち,臨床試験が既に始まっている薬剤もあり,その成績が期待されている.
 今から30 年前では,生殖年齢の若い女性の「がん治療」は,妊孕性を温存したくても,その手技には限界があり,妊娠はあきらめてもらうことが多かった.
 近年,Oncofertility(がん・生殖医療)という概念が生まれ,医療技術の進歩や症例の積み重ねによってそれぞれの適応を遵守しながらであれば,がん治療後の妊孕性を温存するための治療法が数多く試みられるようになっている.婦人科がんにおいても子宮がんや卵巣がんに対する子宮や卵巣を温存する手術やホルモン療法,生殖補助技術の進歩によるがん治療前の精子や卵子,受精卵の凍結保存,最近では卵巣を組織ごと凍結保存して,がん治療の終了後に再度体内に移植する技術もある.また,子宮移植は既に世界では臨床応用が実現しており,近い将来婦人科がん治療でやむを得ず子宮を摘出しなくてはならない症例であっても子宮の提供によって自らが妊娠・出産することが可能となるかもしれない.
 最後に貴重な時間を割いて執筆にあたっていただいた諸先生方には深甚なる謝意を表したい.また,執筆・校正・編集などにご尽力いただいた研修委員会の木村正委員長,小林康祐・髙井泰副委員長ならびに委員,担当理事,幹事の諸君に深く感謝する次第である.

平成30年8月 会長 木下勝之