序
女性の一生は,乳幼児期から始まり,学童期,思春期,性の成熟期,閉経期,そして更年期と呼ぶように,それぞれの時期で,視床下部・下垂体・卵巣系のゴナドトロピン- 性ステロイド系のホルモン発現から消退の過程で,身体的かつ精神的に大きく変化することによって,特徴付けられている.今回,本編のテーマとした思春期は,少女時代から排卵周期を獲得する前後であり,女性にとって,心も体もともに最も大きな変化を経験する時期であるだけに,小児科,あるいは産婦人科診療の際には,この時期の女性の心のあり方を考慮することが肝要である.
特に,身体的変化としては,排卵の結果起こる月経の発現をみることから始まるが,順調な排卵周期を獲得するまでには,各種月経異常の出現は問題であり,また,排卵周期が確立しても,月経困難症や月経前症候群など月経周辺の女性の悩みは思春期の頃から発現する.この時期は,それだけではなく,コンビニの書棚に並ぶ漫画本の性描写は見るに堪えないものが多いにもかかわらず,子どもたちの目に容易に入るように陳列されている.
また,今日のインターネット時代において,スマホは,子どもたちの日常のツールと化しているだけに,月経の発現前から,性に関するYouTube の動画は容易に視聴できる.このように,身体的成熟以前から思春期の子どもたちにとって性の問題は,極めて大きな比重を占めていることから,性教育,性感染症,避妊,人工妊娠中絶などは,日々の診療だけでなく,思春期女性を性被害から守るために学校保健上の重要課題として対応してほしい.
一方,予防医学の視点は,これからの医療の大きなテーマであり,思春期におけるHPV ワクチンをはじめ,各種ワクチンの接種は,整理しておかねばならない.特に,このような排卵周期を獲得する前後の少女の心は繊細であることが多く,様々な家庭の問題特に母子関係,親子関係などによる心の葛藤から極端な痩せが出現することがある.このように,思春期は排卵周期が確立する性の成熟期を迎えるまでの女性にとって,心身ともに極めてデリケートな時代であるだけに,本編でまとめた「思春期のケア」を熟読した上で,自信をもって思春期女性の診療に当たっていただきたい.
最後に,執筆にあたっていただいた諸先生方には深甚なる謝意を表したい.また,執筆・校正・編集にあたっていただいた研修委員会の先生方,医会役員の諸君に感謝する.
令和 2 年 12 月
会長 木下勝之