(1)「性」の構成要素

・ 性別に関する要素は多様である(表39).
・ 身体の性は,性染色体,内・外性器の状態,性ホルモンのレベルなどから決定され,出生時の身体の性の特徴により,戸籍上の性別や保険証の性別(指定された性)が決められる.他にも,性の自己認識(性自認,心の性),性的指向(好きになる性),性役割(男性としての役割,女性としての役割),性別表現(服装や髪形などの表現)などがある.
・ これらの要素のいずれかが多数派と異なる人々は「性的マイノリティ」と呼ばれる.

1 )性的マイノリティ,LGBT,性的指向と性自認(SOGI:sexual orientation and gender identity)

・ 性的指向の視点から見た少数派であるL(レズビアン),G(ゲイ),B(バイセクシュアル),さらに,性自認の視点から見た少数派であるT(トランスジェンダー)を加えた「LGBT」,(I インターセックス,性分化疾患)を加えた「LGBTI」,Questioning(不確定)やQueer(個性的),あるいは,A(アセクシャル,無性愛)を加えた「LGBTIQA」などの言葉もあるが,最近は,性的マイノリティ全体を表す言葉として「LGBTQ+」も使用される.
・ 性的指向(Sexual Orientation)と性自認(Gender Identity)の頭文字を合わせた「SOGI」という言葉は,異性愛(ヘテロセクシャル)や性自認が身体の性と一致しているシスジェンダーなどの多数派を含め,性の多様性を表す概念である.性的指向も性自認も生まれながらに決まっており,無理に変えようすることは当事者の本質を否定することとなり,うつや自殺につながることもある.
・ 各種のインターネット調査では,日本のLGBTQ+当事者は約8%( 13 人に 1 人)とされる.また,三重県立高校の約1 万人の生徒への調査( 2017 年)では,LGBT 当事者( 281 人)が約3%,Questioning( 214 人)が約2%,男・女のいずれかではないと感じているX ジェンダー( 508 人)が約5%で,LGBTQ+当事者は約10%であったとされる.

2 )同性愛,両性愛など

・ 思春期には性的指向が定まってくる.ただし,第 2 次性徴などの「身体的な思春期」に比較して,「精神的な思春期」の長さは,近年,一般的に延長しており,20 代前半までともされる.思春期には様々な経験をし,性的指向が揺れるように見えることもあるが,「単なる思い込み」「指導すれば変えられる」と考えるのは間違いである.
・ 10 代のゲイ・バイセクシャル男性の自傷行為の経験率は17%と高く,首都圏の男子中高生の7.5%と比較して約2 倍とされる.ゲイ・バイセクシャル男性の自殺未遂リスクはヘテロセクシャル(異性愛)男性の約 6 倍とも報告されている.デンマークやスウェーデンでは,同性婚が認められた時期から同性愛者の自殺率が大幅に低下していることが報告されており,社会の意識変革は自殺防止に有効と考えられる.
・ 同性愛や両性愛などの当事者の場合,思春期のうつ,自殺念慮,不登校などに関連して,医療的対応が必要となる例もあるが,性同一性障害や性分化疾患の当事者と比較すると医療が介入できる部分は小さい.

3)トランスジェンダーと性同一性障害

・ トランスジェンダーとは「性の自己認識(性自認,心の性)」と「身体の性」とが一致しない状態であり,自分の身体の性を強く嫌い,その反対の性に強く惹かれた心理状態である性別違和感が続く.心は女性で身体は男性の場合はトランスウーマン(MTF:male to female),心は男性で身体は女性の場合はトランスマン(FTM:female to male)と呼ばれる.しかし,実際には,男性型と女性型の二者択一ではなくグラデーションがある.
・ トランスジェンダーのうち,医療を希望した人々に対して用いる診断名として「性同一性障害(GID:gender identity disorder)」がある.アメリカ精神医学会のDSM- 5( 2013 年)の邦訳は「性別違和」であり,WHO のICD- 11( 2022 年から正式採用)では「 Gender incongruence(日本語訳は性別不合の予定)」に改称予定である.