(1)てんかん合併妊娠の問題点

解説

全妊婦の0.3~1%にてんかんを合併する.

1)妊娠がてんかんに及ぼす影響

  • 妊娠前と同じ内容・量の抗てんかん薬(AED:antiepileptic drug)服用で,7~25%が発作頻度減少,20~33%が発作頻度増加,50~83%が不変だった.
  • 自己判断によるAED中止には十分気をつけ,配偶者にも必要性を説明する.
  • てんかん治療担当科と連携し,必要時にAEDおよび葉酸の血中濃度を測定する.
  • 分娩によるストレスより産褥期に発作が出やすい.
  • 妊娠中に発作頻度が増加する理由は,

    • 妊娠による循環血流量・体重の増加,肝臓での代謝亢進や腎臓での排出増加によるAED血中濃度の低下
    • 妊娠悪阻による嘔吐
    • 妊娠中のストレスや不安による心理的影響
    • 妊婦の自己判断によるAEDの減量や中止
  • 特に,AEDの腎排出量は妊娠第1三半期より上昇,妊娠36週まで増加するため,場合により量の増加,分割投与を考慮する.
  • 発作頻度が減少する理由として,血漿アルブミン量の減少による遊離型AED増加がある.

2)てんかん発作が胎児に及ぼす影響

  • いわゆる全身痙攣発作(GTCs)は胎児の低酸素状態やアシドーシスを招くため,流早産や胎児脳障害のリスクとなる.しかし最近では,脳障害報告は認められない.
  • それ以外の発作(non-convulsive seizure:欠神発作,部分発作など)は基本的に妊娠経過・出産に影響しない.ただし発作時の転倒による母体の外傷に注意を要する.
  • 重積状態の頻度自体は少ないが,Teramoらは29例中,母体の死亡9例,胎児の死亡14例と報告している.
  • 発作時は,バイタルサインを把握し,気道確保・酸素投与,静脈確保を行う.薬剤の第一選択はジアゼパム10~20㎎をゆっくり静注,コントロール困難な場合はフェノバルビタール2~5㎎/㎏を皮下・筋注する.

3)AEDが胎児に及ぼす影響

  • バルプロ酸やトピラマート投与および多剤療法を受けた場合は奇形のリスクは上昇する.
  • 原則として薬剤数が少ないほど,服用量が少ないほど,血中濃度が低いほど児への影響が少ない.よって単剤・低用量での投与が望ましい.
  • 特に妊娠4週0日から7週6日はcritical periodとされ,薬物曝露の影響が強い.
  • AED(表4)を服薬していた妊婦のタイプ別大奇形の発現率を表5に示す.
  • 妊娠前1年発作が起きなければ妊娠中の発作のリスクは50~70%減少するといわれ,AEDの投与を単剤に努めるよう推奨している.2005年,米国神経学会では2~5年発作がなく,単剤で,脳波が正常化している場合,妊娠前にAED中止を検討するように推奨している.
  • カルバマゼピンやバルプロ酸などのAEDは葉酸の拮抗作用があり,神経管閉鎖障害のリスクを上昇させ,葉酸がこれらのリスクを低減する可能性が示唆されている.妊娠前3カ月から妊娠まで,1日4~5㎎の葉酸(1錠5㎎のフォリアミン)摂取を考慮する.しかし,AEDによる神経管閉鎖障害が葉酸摂取で抑えられるかの試験結果も示されておらず,4㎎という用量もエビデンスはない.
  • 胎児期におけるバルプロ酸曝露は,ほかの一般的なAEDへの曝露に比べて,3歳時点での平均IQが有意に低かったとの報告がある.
  • なお,出生児に新生児不適応症候群(眠りやすい,痙攣,易刺激性,哺乳不良など)や新生児遷延性肺高血圧症を呈することがあるが,生後数時間から数日以内に出現し,1週間以内には消退する.

表4.主なAEDとその特徴

表4続き

表5.AED服薬中のてんかん妊婦の児(9,540例)に認められた奇形とその頻度

4)AED服用中の授乳

  • 肝臓,腎臓機能異常のない新生児では原則的に可能である.バルビツール酸系,ベンゾジアゼピン系,ゾニサミドを大量服用している場合は,生後1週間は人工栄養も併用する.
  • てんかん合併の有無にかかわらず,出生当日,1週間後,1カ月後に新生児にビタミンK2シロップ1mL(2㎎)を投与する.
  • 各種AEDの乳汁への移行率を表6に示す.

表6.各種AEDの乳汁への移行率

5)てんかんと産褥期の管理

  • 表6を参考に移行性が少なく半減期の早い薬剤の場合,新生児の離脱症状,傾眠,低緊張,哺乳力低下に注意し授乳も可能である.ただし母体の睡眠不足,疲労を避けさせるべきであり,入院中夜間は児を新生児室に移すなどの配慮が必要である.
  • 日本産婦人科医会医療安全委員会からの『母体安全への提言2014:第5報』(表7)では,2013~2014年にてんかん合併妊娠の妊産婦死亡例が2例あり,いずれも分娩後の入院中に心肺停止状態で発見されていることから,入院中の生体監視モニター装着を提言している.

表7.日本産婦人科医会の2014年提言

6)児への遺伝

  • てんかん発症の要因として,多くの場合で遺伝子の関与は大きくない.多因子遺伝の形式で頻度は明らかに高くなるが,一般人口の20歳までの発症率が1~2%に対し,てんかん患者の子孫では6%になる.また同胞が15歳未満で発症した場合20歳までの発症率は3~5%となる.