(1)不妊カップルに対する検査のアルゴリズム

ポイント

  • 不妊検査は,一般不妊診療の段階で行う検査,不妊原因をより精密に診断するための内視鏡検査,高度生殖医療実施の際に行われる卵子や子宮の異常を探るための検査に大別される.
  • 不妊症に対する検査は複数ある.これは妊娠成立のためにはいくつものステップが必要でそのステップごとに別の検査を必要とするためである.
  • 不妊検査は,一般不妊診療の段階で行う検査,不妊原因をより精密に診断するための内視鏡検査(内視鏡検査),高度生殖医療実施の際に行われる卵子や子宮の異常を探るための検査(高度生殖医療における検査)に大別される(表3).
  • 妊婦健診中に行われる検査をプレコンセプションの段階で行って妊娠後に愁いをなくしておくとの考えがあり,これらの検査を一般不妊検査として行っている場合も多い.これらの検査については,一部自費診療となっているものもある.

表3.妊娠成立までのステップ別の検査

一般不妊検査

  • 以下の1)~15)が一般不妊検査としてよく行われる検査である.
  • これらの検査をすべて行うようにするのが原則であるが,患者の背景,特に年齢と不妊期間,さらに卵巣予備能を考えながら検査を組み立てていくのが実践的であると考えられる.例えば,卵管造影検査に関しては,患者は痛みを感じ,時として子宮内感染を惹起する場合もあり,タイミング合わせの後,排卵誘発剤使用中に初めて行うこともある.また,精液検査も同様で夫の協力がなかなか得られない場合などは,治療を進めて行く段階で検査を行うこともある.一方,生殖年齢後半(35歳),長い不妊期間,卵巣予備能低下,問診で不妊のハイリスクと考えられる要因をもっている患者に対しては,早急に多くの検査を行い,異常があればそれに則した治療を行うべきである.

1)血清女性ホルモン基礎値(FSH,LH,エストラジオール),プロラクチン,TSH,freeT4,テストステロン

 排卵障害が認められる場合には,血液検査を参考にし,視床下部・下垂体機能不全,視床下部・下垂体機能低下(多囊胞性卵巣症候群,高プロラクチン血症),卵巣不全に分類する.

2)子宮卵管造影

 子宮内腔の形態異常,卵管の疎通性,卵管采周囲癒着,卵管の癒着など調べるための検査であるが,正診率は高くないことに留意する.

3)経腟超音波検査

 子宮筋腫,子宮腺筋症,子宮内膜ポリープ,卵巣腫瘍などの病変のスクリーニングのためのみならず,卵胞発育や子宮内膜厚の検査に用いる.

4)精液検査

 射出精子の精子濃度や運動率を測定する.WHOの報告において明らかなように男性不妊の割合が多いことに留意する.

5)基礎体温

 排卵後の黄体から分泌されるプロゲステロンの血中濃度が4ng/mL以上になると視床下部中枢に作用し基礎体温は約0.4℃上昇する.排卵の有無の補助診断として使用されるが,排卵日の確実な予測は不可能である.また,基礎体温の高温相のパターンから黄体機能不全を診断することは困難である.

6)性交後試験(フーナーテスト)

 射精された精子が子宮内に進入できるかを確認するため,性交後に子宮頸管内腟内の運動精子の確認を行う.

7)抗精子不動化抗体

 精子を不動化する自己抗体の総称で,精子を不活化させ卵子との受精を妨げ免疫性不妊の原因となる.

8)子宮頸管クラミジア・トラコマチスPCR,または,クラミジア・トラコマチスIgG&IgA)

 性感染症であるクラミジア・トラコマチス感染の生殖器の感染やその既往を検討する.

9)黄体機能検査

 基礎体温,着床期プロゲステロン値,子宮内膜日付診などによるが,その診断は確立されておらず,不妊症の検査として推奨されなくなってきている.

10)血清中AMH:anti-Müllerian hormone(抗ミュラー管ホルモン)

 卵巣予備能の評価を行う(7~9頁参照).

11)風疹抗体価

 風疹の既往を調べる.

12)随時血糖,HbA1c

 糖尿病を評価する.

13)子宮頸部細胞診

 子宮頸部異形成,子宮頸がんの有無を調べる.

14)感染症検査(TPHA,HBs-Ag,HCV抗体,HIV抗体)

 梅毒,B型肝炎ウイルス感染などの有無を調べる.

15)MRI検査

 腫瘍性病変,形態異常などを評価する.

内視鏡検査

  • 以下の16)~17)が行われる.
  • 原因不明不妊や不妊原因が軽症でその治療を行っても妊娠しない比較的若い患者の場合に,治療ではなく検査として腹腔鏡を実施することも多い.
  • 原因不明の場合には,およそ半数に子宮内膜症が認められ,4分の1程度に卵管の異常が発見される.腹腔鏡施行時にこれらが治療できることも多く,また,治療できないと判断されれば速やかに体外受精に移行するようできる.
  • 排卵障害のみ認められる患者に排卵誘発を行っても妊娠しない場合は,原因不明不妊と同様と考えられ腹腔鏡の適応となると考えられる.
  • 子宮内病変が疑われる場合や着床障害が疑われる場合には,子宮鏡検査を実施し診断を確定することができる.また,子宮内膜ポリープなどは子宮鏡下に比較的低侵襲で治療することができる.

16)腹腔鏡検査

 検査としては,原因不明不妊や子宮内膜症性不妊の評価に用いられるが,同時に治療ができるメリットがある.治療後の自然妊娠率が高い.

17)子宮鏡検査

 子宮腔内を内視鏡で観察する検査である.内膜ポリープ,子宮形態異常,粘膜下筋腫などの診断に有用である.

高度生殖医療における検査

  • 以下の18)~19)は体外受精施行後に行われる検査である.
  • 体外受精の発展により胚異常,また,着床障害を独立して診断できるようになり,それらの診断技術も進むようになった.

18)着床前遺伝学的検査(PGT:preimplantation genetic testing)

  • 胚の選別方法として,着床前遺伝学的検査(PGT)が注目されている.
  • PGTは,①PGT-A(preimplantation genetic testing for aneuploidy),②PGT-M(preimplantation genetic testing for monogenic disorders),③PGT-SR(preimplantation genetic testing for structural rearrangement)の3つに分類されている.不妊と関係しているものは,PGT-Aである(98~102頁参照).
  • 現在では,胚盤胞の栄養膜細胞の一部を採取し,これらの細胞の染色体数を評価する.最近は多くの場合,次世代シーケンサー(NGS:Next Generation Sequencer)を用いる.

19)着床能検査

  • 子宮内膜の最も重要な機能は胚受容と胚の選別であり,これらが障害されると反復着床不全や習慣流産となるが,これらを改善する目的で複数の検査が導入されている.
  • これらには,①子宮内膜着床能検査,②子宮内細菌叢(子宮内フローラ)検査,③慢性子宮内膜炎検査がある.

①子宮内膜着床能検査・子宮内膜胚受容期検査

 子宮内膜の implantation window(着床の窓)を評価する検査である.着床期に採取した子宮内膜を用いNGSで遺伝子を調べ,着床の窓がずれているかどうか診断できるようにした.いわば遺伝的子宮内膜日付診であるといえる.

②子宮内細菌叢検査

 次世代シークエンサー(NGS)を用いて細菌叢を調べる技術である.この細菌叢は,子宮内膜細胞と免疫細胞両者の機能を調節している可能性があり,この細菌叢の乱れが着床能に影響するとの報告がある.

③慢性子宮内膜炎(CE:chronic endometritis)検査

 子宮内に病原微生物などの抗原が存続し,その抗原に対する免疫学的に軽微な応答が持続している状態であると定義されている.臨床上は,CD138 の免疫染色により形質細胞を指摘することにより診断することが多い.臨床経過の検討から慢性子宮内膜炎が着床や妊娠予後に影響することが明らかになってきている.