ポイント
- 不妊治療は不妊原因を正確に診断し,原因に即した治療を選択することが原則となる.
- 原因不明不妊症は10~25%程度存在する.
- 妊娠予後が悪いと推定される症例では,短期間で治療のステップアップを図ることが必要となる(生殖補助医療施設への紹介を含む).
1)不妊症の原因
- 不妊症とは避妊しない性交渉を12カ月間定期的に行っても妊娠に至らない状態を指す.
- 不妊原因の種類や頻度については多くの報告があり,一般的に排卵因子は10~15%,卵管因子が30~40%,子宮頸管因子が10%,男性因子が40~50%,原因不明が10~25%とされている1).
- 男女ともに加齢とともに妊娠しにくくなることが知られており,年齢因子を含む原因不明不妊は増加している.
2)不妊症検査
- 避妊しない性交渉を12カ月間定期的に行っても妊娠しない場合は,不妊検査を受けるべきとされる,35歳以上の女性で6カ月間妊娠していない場合は早めの評価が推奨され,40歳以上の女性ではより早期の評価が必要となる2).
- 『産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編2023』では,外来通院で実施可能な一次スクリーニング検査として,基礎体温測定,超音波検査,内分泌検査,クラミジア抗体検査あるいは核酸増幅検査,卵管疎通性検査,精液検査,頸管因子検査が挙げられている3).一次スクリーニング検査で不明確な部分や疾患が疑われる場合には,子宮鏡検査やMRI検査,腹腔鏡検査を行うこともある(18~21,22~25,26~29頁参照).
- 米国産科婦人科学会(ACOG)と米国生殖医学会(ASRM)によるガイドラインでは,排卵因子,卵管因子,子宮因子,男性因子に加え,抗ミュラー管ホルモン(AMH:anti-Müllerian hormone),FSH/E2基礎値,胞状卵胞数による卵巣予備能の評価を行う検査が含まれている(図12)4)(7~9頁参照).
- 同ガイドラインでは,診断効率が低い,妊娠可能かどうかの判別ができない,高額,高い侵襲性などを理由に,原因不明不妊に対する腹腔鏡検査,精子機能検査(DNA断片化検査など),性交後試験,血栓症検査,免疫検査,染色体検査,子宮内膜組織診,血清プロラクチン測定をスクリーニング検査として推奨していない.
- 不妊症を主訴に来院された患者に対する評価方法をフローチャートにまとめた(図12).
3)一般産婦人科診療所・病院の外来でのカップルの治療の進め方と生殖補助医療専門施設への紹介のタイミング
- 不妊原因が明らかになった場合には,それぞれの原因にあった治療を行う.
- 原因不明不妊の治療法では,通常患者さんに負担が少ない自然の妊娠に近いタイミング療法から開始して,妊娠に至らない場合には配偶者間人工授精(AIH: artificial insemination with husband’s semen)へステップアップする(表8)3).
- 次の場合は生殖補助医療施設への紹介が考慮される.
- タイミング療法および人工授精をそれぞれ6回程度繰り返しても妊娠成立しない場合
- 35歳以上の女性では妊娠成績が顕著に低下することから3回程度でステップアップを考慮
- 40歳以上の女性ではより早期のステップアップが必要
- 両側卵管閉塞5)
- 重度男性不妊症例(精子濃度100万/mL以下など)5)
4)生殖補助医療施設での治療の概要
- 生殖補助医療(ART)は「妊娠を成立させるためにヒト卵子と精子,あるいは胚を取り扱うことを含むすべての治療あるいは方法」であり,一般的には体外受精・胚移植(IVF-ET:in vitro fertilization・embryo transfer)・卵細胞質内精子注入(ICSI:intracytoplasmic sperm injection),および凍結・融解胚移植などを指す.
- IVF-ETは経腟的に採卵し,体外で精子と受精させ,得られた受精卵を子宮内に戻す方法となる.
- 重度の造精機能障害や conventional IVF で受精障害を認める場合は,採卵した卵子に1つの精子を直接卵子の中に注入して授精させる(ICSI).
- 男性不妊の原因により泌尿器科に依頼をし,精索静脈瘤手術,精路再建手術,低ゴナドトロピン性性腺機能低下症治療などを検討する.
- 精巣機能障害による非閉塞性無精子症でARTを予定する場合は,顕微鏡下精巣内精子採取術を検討する.
文献
- 1)Bradley D Anawalt, S T P. Causes of male infertility(https://www.uptodate.com/contents/causes-of-maleinfertility)
- 2)Female age-related fertility decline. Committee Opinion No.589. Fertil Steril. 101: 633-634, 2014(https://doi. org:10.1016/j.fertnstert.2013.12.032)
- 3)日本産科婦人科学会,日本産婦人科医会編.産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編.2023
- 4)Carson S A, Kallen A N. Diagnosis and Management of Infertility: A Review. Jama. 326: 65-76, 2021(https:// doi.org:10.1001/jama.2021.4788)
- 5)日本生殖医学会編.生殖医療ガイドライン.2021