(1)不妊治療前に気をつけておくこと

ポイント

  • 将来の母児の健康を見据えた食事・栄養・運動・生活習慣の知識を持ち,実践するプレコンセプションケア(妊娠・受胎前の健康管理)が重要であることを伝える.
  • 妊娠前のチェック項目として,プレコン・チェックシート(図1)を紹介する.

図1.妊娠前のチェックリスト

1)バランスのよい食事

 妊娠に適した身体を作るためには,様々な栄養素が必要である.主食(ごはん,パン,麺など)・主菜(魚,肉,卵,大豆製品など)・副菜(野菜,海藻,きのこなど)を組み合わせたバランスのよい食事を勧めるために,厚生労働省が提供する「妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針」(https://www.cfa.go.jp/policies/boshihoken/shokuji/)を参考にする.具体的には,「『主食』を中心に,エネルギーをしっかりと」「不足しがちなビタミン・ミネラルを,『副菜』でたっぷりと」「『主菜』を組み合わせてタンパク質を十分に」「乳製品,緑黄色野菜,豆類,小魚などでカルシウムを十分に」などが挙げられている.

 また海外では,野菜,果物,ハーブ,魚介類などを多く摂取し,赤身肉や加工食品は控えめにして,不飽和脂肪酸の摂取率を高めるオリーブオイルを多く用いた地中海食が,健康にもよく,妊娠率や生産率を高めるとされている.

2)栄養・サプリメント

 ビタミンD不足は,妊娠率・着床率の低下や流産と関連し,妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病のリスク因子となることも確認されている1).ビタミンDは日光浴により皮膚で産生されるが,妊娠前にはビタミンDを多く含む食品(きのこや魚など)を意識して摂ることが重要である.

 食事やサプリメントからのω3脂肪酸の摂取量が多いほどARTの治療成績(妊娠・出産率)がよく2),卵巣の老化を遅らせ,高齢期の卵母細胞の質を改善する可能性があるとされる3).ω3脂肪酸には,アマニ油,えごま油,クルミなどに含まれるαリノレン酸と,サバやイワシなどの青魚に含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸),EPA(エイコサペンタエン酸)がある.

 妊娠前の葉酸摂取は,二分脊椎など神経管閉鎖障害の予防につながるだけでなく,妊娠率上昇や流産率低下の報告がある.妊娠を考える2~3カ月前から,葉酸だけでなくビタミン,鉄・亜鉛などを含むマルチビタミンサプリメントの服用を勧めるとよい.

3)運動

 過度な運動は妊孕能を低下させる可能性があるが,適度な運動習慣は,健康な身体づくりに必要である.週に5時間以上穏やかな運動をする女性は,週に1時間以下の女性に比べ妊娠率が高い報告がある一方,週に5時間以上の激しい運動をする女性は全く運動しない女性に比べて妊娠率が低くなるとされる.プレコンセプションケアでは週150分の運動が勧められている.

4)飲酒

 高レベルのアルコール摂取は,妊娠までの期間が長くなり,妊娠・出生率の低下につながるという報告がある.また妊娠中の飲酒は胎児アルコール症候群(胎児アルコール・スペクトラム)との関連が指摘されている.どのくらいのアルコール量が妊娠に影響するかは不明であるが,不妊治療を行う際には,アルコールを控えるよう指導する.

5)喫煙

 たばこが呼吸器疾患や悪性腫瘍など様々な健康被害を及ぼすことは明らかで,男女ともに不妊の原因になる.妊娠前に禁煙することは低出生体重児出産のリスクを下げるという報告もあり,不妊治療前に男女とも禁煙が勧められる.

文献

  • 1)Aghajafari F, et al. Association between maternal serum 25-hydroxyvitamin D level and pregnancy and neonatal outcomes: systematic review and meta-analysis of observational studies. BMJ. 2013 Mar 26; 346: f1169.
  • 2)YH Chiu, et al. Serum omega-3 fatty acids and treatment outcomes among women undergoing assisted reproduction. Hum Reprod. 2018 Jan 1; 33(1): 156-165.
  • 3)Nehra D, et al. Prolonging the female reproductive lifespan and improving egg quality with dietary omega-3 fatty acids. Aging Cell. 2012 Dec; 11(6): 1046-1054.