(1)性感染症の総論
・ 性感染症( STD:sexually transmitted disease)に対するケアは,女性ヘルスケア,特に思春期におけるプレコンセプションケアにおいて中心的部分を占める.STDは女性生殖器への可逆的・不可逆的変化をもたらし,生殖活動に大きな影響を与えるからである.さらに,新型コロナウイルスでも分かるように“感染症”は,いつの時代も絶えることなく永遠に発生し続ける疾病である.
・ 近年,女性の STD の罹患率は横ばいである(ただし,梅毒は急増している).STD患者の年齢分布では,図2 に示した 2019 年の感染症発生動向調査(女性)によると,性器クラミジア,性器ヘルペス,尖圭コンジローマ,淋菌感染症,および梅毒のいずれもが,20 歳台前半に発生数のピークが来ている.しかも,10 歳以降の思春期女子の罹患者も一定数いることが分かる.
1 )STD の疫学のポイント
・女性では,20 歳台前半が罹患ピークである.
・性器クラミジア感染症と淋菌感染症は不妊につながる.
・性器ヘルペス,尖圭コンジローマ,梅毒は母子感染症につながる.
・思春期女子にも罹患者がいる.
・プレコンセプションケアの観点から適切な管理が極めて重要.
2 )STD の診療のポイント
・ 表4 にまとめた.
・ 女性の STD 患者は無症候性の感染が多い.無症状でも積極的に STD の検査を行い,見逃しをなくすことが婦人科医の役目である.
・ STD 罹患者は,しばしば治療のアドヒアランスが悪いため,単回投与が推奨される.
・ 淋病感染症は薬剤耐性が問題となっていることから治療が奏効するとは限らないので,必ず治療後に陰転化したことを確認する.
・ 咽頭を介した STD があることを念頭におき,咽頭感染のチェックを行う.
・ 男性パートナーが無治療の場合は,治療を行っても再度感染を繰り返すことがある(ピンポン感染)ので,男性パートナーの治療も促す.