(1)総論

・ 思春期に発症する卵巣腫瘍の60~80%は胚細胞腫瘍,15~20%が上皮性腫瘍,10~20%が性索間質腫瘍,5%未満がその他であり,思春期における悪性卵巣腫瘍の年齢調整罹患率は 10 万人あたり 1.072 人である.
・ 思春期に最も多い胚細胞腫瘍は生殖細胞由来の腫瘍である.胚細胞(原始生殖細胞)から胎芽あるいは胎芽外組織(卵黄囊や胎盤)に至る過程を模倣し腫瘍化したとする説(Teilum 説)が支持されている(図18).どの過程で腫瘍化したかによって組織型が異なり,また,いくつかの組織型が混在することもある.
・ 胚細胞腫瘍の組織型には,未分化胚細胞腫(⇒各論1),卵黄囊腫瘍(⇒各論2),胎芽性癌,非妊娠性絨毛癌,未熟奇形腫(⇒各論3),成熟奇形腫(⇒各論4),混合型胚細胞腫瘍がある(表26).

・ 胚細胞腫瘍の中で比較的頻度の高い代表的組織型は,未分化胚細胞腫,卵黄囊腫瘍,奇形腫(未熟・成熟)で,良性としては成熟奇形腫が最も多く,悪性としては未分化胚細胞腫と未熟奇形腫が多い.
・ 卵巣胚細胞腫瘍は,腹部膨満感,腫瘤感,腹痛(腫瘍の茎捻転・破裂・出血・壊死に起因)などで発症することが多い.
・ 稀ながら腫瘍随伴症候群発症を契機に,胚細胞腫瘍がみつかることがある.奇形腫に随伴する抗NMDA 受容体抗体脳炎(⇒各論5),自己免疫性溶血性貧血が知られる.
・ 胚細胞腫瘍に対する治療は,良性腫瘍(成熟奇形腫)においては腫瘍摘出術,悪性腫瘍(未分化胚細胞腫・卵黄囊腫瘍・未熟奇形腫)は妊孕能温存手術と悪性度(進行期/未熟奇形腫Grade 分類)に応じて,BEP 療法(ブレオマイシン+エトポシド+シスプラチン)を基本とする(「卵巣がん治療ガイドライン 2015 年版 第 6 章胚細胞腫瘍金原出版」を参照).