(1)背景
・ 遺伝性腫瘍の診療は大きな転換期を迎えている.婦人科領域の遺伝性腫瘍の代表である遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC:hereditary breast and ovarian cancer)の原因遺伝子である BRCA の遺伝学的検査は,卵巣癌治療において PARP(Poly(ADP-ribose)polymerase)阻害薬であるオラパリブ(製品名:リムパーザⓇ)の使用の可否を検討する検査(コンパニオン検査)として 2018 年 9 月に保険適用となった.一方,2019 年 6 月にはがん遺伝子パネル検査が保険収載されたことにより,産婦人科医も遺伝性腫瘍や遺伝学的検査と対峙する機会が増えてきている.
・ 遺伝学的検査は遺伝子バリアントが存在すれば,がん患者に新たな治療法を与える一方,その血縁者には遺伝子バリアントやがんのリスクが脅威にもなり得る.本稿では,遺伝子バリアントを指摘されたがん患者の未発症血縁者の中でも,特に思春期を含めた15 歳から 39 歳までの AYA(adolescent and young adult)世代の女性への対応について述べる.なお,これまで,「遺伝子変異」という語が用いられてきたが,「変異」という語に否定的なニュアンスが含まれることから,近年では「遺伝子バリアント」という語の使用が推奨されており,本稿においても「バリアント」を用いる.