(1)超高齢社会における女性医療:「フレイル」近未来の取り組み(小川純人)

フレイルの概念

 フレイル(frailty,虚弱)およびその概念については,日本老年医学会より2014 年に発表されたステートメントにおいて,「高齢期に生理的予備能が低下することでストレスに対する脆弱性が亢進し,生活機能障害,要介護状態,死亡等の転帰に陥りやすい状態」とまとめられている.フレイルは連続的な身体予備能の低下を基盤とし,健康障害のリスクを有する状態として心身の脆弱化を捉えた概念である(図40).フレイルは健康と要介護状態の間に位置する中間的,可逆的な性質を有し,既に身体機能障害や併存症を有する状態とは区別される.わが国では介護予防の推進や健康寿命の更なる延伸を目指す上で,フレイルに関する評価とそれに基づく適切な介入は重要である.実際,フレイルな高齢者では日常生活機能障害,転倒,入院などの健康障害を認めやすく死亡割合も高くなるとされる.わが国におけるフレイルの評価については今後の確立が期待されるが,同評価は高齢者の生命・機能予後の推定や包括的医療を実践する上でも重要な概念と考えられる.
 特に女性では,閉経に伴い女性ホルモンレベル低下が認められ,ADL(Activitiesof Daily Living: 日常生活動作)やQOL の低下に影響する認知症,骨粗鬆症などの発症も男性に比べて女性は高いという性差も知られている.さらに,女性は男性に比べて平均寿命や健康寿命が長い一方で両寿命の差や要介護期間も長くなり,ADL やQOL の低下を認めやすいとされる.米国の地域在住高齢者を対象とした研究によると,身体機能障害の発生率には性差が認められなかった一方で罹患率は女性の方が男性に比べて高く,その背景として女性における回復率が男性に比べて低い可能性も考えられる.

フレイルの評価

 フレイルの指標についてはこれまでに様々な尺度や評価方法が提唱されているが,移動能力,筋力,認知機能,栄養状態,バランス能力,持久力,身体活動性などの構成要素に関して複数項目をあわせて評価する場合が多い.Rockwood らの指標によれば,加齢に伴って疾患ならびに日常生活機能障害や身体機能障害が集積することを前提に高齢者総合的機能評価(CGA)の考えに基づいて評価が行われる.そこでは,9 段階からなるClinical Frailty Scale のうち,主として1)Very fit から7)Severely frail の7 つのカテゴリーに基づいて評価される.
 高いカテゴリーの場合には,生存率ならびに施設入所の回避率に対して低い結果に結びつくなど,主観的な評価でありながら高齢者の機能評価や予後予測にも有用である可能性が示された.また,フレイルを早期発見するための簡便で有効な方法としてEdmonton Frailty Scale も知られている.同スケールでは認知機能(時計描写),健康状態,IADL,社会的支援の利用,薬剤服用,栄養状態,抑うつ状態,尿失禁,機能的動作の10 項目で評価を行い,機能低下による要介護リスクを有する高齢者を見つけるのに有用である.実際,フレイルの概念には高齢者の身体的側面に加えて,精神・心理的側面,社会的側面も含まれていると考えられるが(図40),Fried らによる指標では身体機能の表現型を主軸とした定義がなされている.そこでは1)体重減少,2)主観的な活力低下,3)握力低下,4)歩行速度低下,5)活動度低下から成る5 つの症候が抽出され,このうち3 項目以上該当した場合にはフレイル,1~2 項目に該当した場合にはプレフレイルと定義づけられている.

フレイルの悪循環

 高齢者では,加齢に伴う身体機能や臓器予備能の低下などによりフレイルや要介護状態に陥りやすいことが知られているが,その要因の一つとして加齢性筋肉減少症(サルコペニア)が挙げられる.実際,フレイルとサルコペニアとの間には類似する点も多く,サルコペニアはフレイルの中核的かつ重要な要素とも考えられる.また,フレイルを構成する要素,各指標は,サルコペニアやそれに伴う筋力低下,基礎代謝低下,低栄養,活動度低下などと互いに悪循環,連鎖を形成する可能性があり,フレイル・サイクルとして理解されている(図41).フレイル・サイクルに基づけば,サルコペニアの発症や進展により転倒,歩行速度低下,活動度低下,基礎代謝低下などを認めやすくなり,フレイルや要介護状態への進行に至るリスクが高くなると考えられる.また,サルコペニアに伴う筋力やバランス機能の低下は,転倒リスクの中で内的要因に位置づけられ,高齢者の転倒・骨折に大きな影響を与える.このように複合的な背景や成因が考えられるフレイルやサルコペニアでは,高齢者の身体機能低下に加えてADL や生命予後を規定することにつながり,本人や介護者のQOL を低下させてしまう場合が多くその対策は重要である.サルコペニアに対する女性ホルモン補充(HRT)の効果については,英国NCC-WCH(National Collaborating Centre for Women’s andChildren’s Health)のガイドライン(2015 年)などではエビデンスレベルが低く一定の結論が得られていない.今後の学際的研究を通じてフレイルの発症メカニズムや女性ホルモンとの接点について解明が進み,その予防・診断・治療に向けた展開が期待される.