(2)原発性無月経の原因疾患

・ 原因疾患として視床下部・下垂体の障害,卵巣の障害,ミュラー管分化異常などが挙げられる(表22).これらの中で高ゴナドトロピン性である卵巣の障害が最も多い.

1 )視床下部・下垂体の障害(低ゴナドトロピン性)

・ 視床下部・下垂体障害のためゴナドトロピンの分泌が不十分で,卵巣機能が低下している状態である.先天的な中枢の障害( Kallmann 症候群など),視床下部腫瘍(頭蓋咽頭腫など),下垂体腺腫( prolactinoma など),体重減少(神経性やせ症など)がある.
・ Kallmann 症候群は低ゴナドトロピン性性腺機能低下と嗅覚障害を主徴とする先天性疾患である.原因遺伝子として KAL1 などいくつか報告されているが,遺伝要因は完全には解明されていない.発症頻度は男児で 1 万人に1 人,女児で 5 万人に 1 人とされ,稀な疾患である.GnRH 負荷試験で低反応であるが,連続負荷で反応性が回復すれば視床下部性と診断でき,嗅脳の低形成・無形成などを頭部MRI により診断する.

2 )卵巣の障害(高ゴナドトロピン性)

・ ターナー症候群は,45, X に代表されるX 染色体短腕が1 組しかない染色体異常で,女性2,000~2,500 人に 1 人の割合とされる.低身長,性腺機能不全が代表的な症状であり,翼状頸,外反肘などを呈する.原発性無月経の原因となる染色体異常の中では最もよくみられる疾患である.その他,染色体が46, XY で性腺は索状を呈すXY 純粋型性腺形成不全症(Swyer 症候群)や,XX 性腺形成不全症,染色体がモザイクの性腺形成不全症などの性分化疾患がある.
・ 小児がん治療のための全身放射線照射や抗がん薬の投与により,卵巣機能不全が生じる.造血幹細胞移植の際の前処置として行われる全身放射線照射(TBI)や化学療法(特にアルキル化剤)が早発卵巣不全と関連することが報告されている.初経前の治療であれば初経遅延・原発性無月経となり,第二次性徴の発現がみられず,また初経後であれば続発性無月経となる.卵巣疾患による外科的切除の場合も同様である.

3 )ミュラー管分化異常(正ゴナドトロピン性)

・ 胎生期にミュラー管から子宮,卵管,腟の上部 2/3 が形成されるが,発生途中で障害されるとこれらの臓器の欠損が起こる.これが Rokitansky-Küster-Hauser 症候群である.この場合卵巣は正常なので,女性ホルモンの分泌に問題はなく二次性徴は保たれている.しかし,子宮がないために無月経である.腟閉鎖には,処女膜閉鎖症,腟中隔(腟横隔膜)などがある.この場合は,月経血の流出がみられないので,月経周期に一致した下腹部痛(月経モリミナ)から発見される.

4 )その他

・ アンドロゲン不応症(AIS:androgen insensitivity syndrome)は46, XY であり,アンドロゲン分泌はあるが,受容体の異常あるいは酵素異常による胎生期のアンドロゲン作用異常によって生ずる.作用異常の程度により完全型と部分型に分類され,完全型AIS(CAIS)では完全女性型外性器となり,性の自認も女性であり,かつて「精巣(睾丸)女性化症候群」と呼称された(現在ではこの疾患名は推奨されていない).
・ 先天性副腎皮質過形成はアンドロゲン分泌過剰により外性器が男性化する.生後間もない時期に診断され治療が行われている場合は男性化も少なく,原発性無月経とならない.
・ 甲状腺機能亢進症で月経不順や無月経となる場合がある.
・ 多囊胞性卵巣症候群(PCOS)では多くは続発性無月経であるが,18 歳以降も初経のない原発性無月経を呈する場合もある.