(2)各地での学校での性教育の取り組み

・ 様々な地域で学校における性教育を進めていく試みはされている.以下に産婦人科医による学校での性教育の実際例を提示する.
・ 産婦人科医師以外でも,性教育を行う NPO や助産師会,看護協会なども性教育に取り組んでいる.性教育は産婦人科医のみが担うものではなく,学校教育の中でどのように位置づけるのか,どのような価値観をもって行うのかによって担い手が変わるのだと思う.

1 )東京都の取り組み

・ 平成 18 年度から文科省の委託事業として「専門医による学校保健活動支援事業」の名称で東京産婦人科医会の医師を都立学校へ派遣してきた.平成 22 年度からは東京都の事業として「都立高校における専門医派遣事業」の名称で東京都教育庁と東京産婦人科医会の協力で事業を継続してきた.
・ 事業の流れを示す.
① 年末に教育庁から都立高校へ希望調査票が送られ,1 月に申し込みを締め切り,希望校のデータが医会へ送られ,3 月末までに担当医を決定して教育庁へ提出する.
② 教育庁から学校と担当医へ文書が送付され,個別に打ち合わせをしてもらう.
③ 授業はほぼ夏休み前の 7 月に集中するが,12 月,1 月ということもあり,生徒だけでなく,教職員向け,保護者向けに講演会や個別相談を行うこともある.
④ 終了後は報告書を提出してもらい,3 月までに連絡会を開催,今後の課題を検討する.
・ 年々希望校数は増加しているが(図23),派遣医が足りないという問題がある.希望校が増えたのは,学校教諭向けに性教育の必要性を伝える講演会を毎年行ってきたことが大きい.
・ 2018 年からこの活動をさらに中学校へと広げる動きが出てきた.東京都医師会とも連携し,最初は 5 校,2019 年は 10 校へモデル授業として性教育を行ったものの,派遣医の不足が懸念されたために,派遣医育成のための産婦人科医向け講演会を開催した.しかし,2020 年は新型コロナウイルス感染防止のために講演会が中止・延期となっている.

2 )群馬県の取り組み

・ 地方では東京に先立ち,先進的な取り組みがうまく稼働している県もある.
・ 群馬県は既に 40 年以上前から,県産婦人科医会が「群馬思春期研究会」を立ち上げ,教育,行政と一体になって県下の全中学校・高校(公立私立を問わず)へ年 1 回産婦人科医を派遣する取り組みを続けている.群馬県は 10 代の妊娠中絶率,性感染症罹患率が全国的にも低い状態が続いている. 

3 )青森県の取り組み

・ 青森県や佐賀県は,医療だけでなく行政や教育と協力し性教育を進めている県である.
・ 青森県は県を 6 つのブロックに分け,それぞれに産婦人科校医とサポート校医の2名を定めている(ちなみに東京都は学校医に産婦人科医は入っていない),昭和56年から,県下の各高校へそれぞれの担当校医が性教育の講演や保健相談などに出向いている.たった 1 人の生徒のためにもこれが行われている.また平成 19 年からは「学校における性に関する教育」の手引書「健やか青森っ子」が年 4 回,小学校・中学校・高校の教諭向けに配布されている.

4 )佐賀県の取り組み

・ 佐賀県は 2009 年に「性の健康問題対策会議」を立ち上げた.行政各課(母子保健課,体育保健課,学校教育課,こども未来課,健康増進課,社会教育・文化財課),医師会,看護協会,佐賀大学,男女共同参画センター,DV 総合対策センター,保健福祉事務所,など幅広い機関から参加してもらい,主に学校医が中心となって性教育を行う形になっている.佐賀県も学校医に産婦人科医はいないので,まず産婦人科医から学校医へレクチャーをし,その上で学校医が行っている.できない場合は産婦人科医や助産師が出向くことになっているそうだ.