(2)妊婦の外傷の評価と管理

  • 妊婦の外傷の管理を図12に示す.第一に優先されることは母体の循環と酸素化を最適化することである.胎児の最も有効な治療も母体の有効な蘇生である.

図12.児が生存可能な妊娠週数における妊婦の外傷の評価と管理(妊娠週数が不明の場合は子宮底が臍高以上の場合)

  • JATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)では,プライマリサーベイはABCDEアプローチ(表22)に基づき生命維持のための生理機能の維持,回復を最優先として検索,対処するとしている.

表22.ABCDEアプローチ

  • その次にセカンダリサーベイとして全身の損傷を系統的に検索する.迅速簡易超音波検査としてFAST(Focused Assessment with Sonography for Trauma)がある.FASTは出血の有無を評価する方法で,①心囊腔,②モリソン窩,③右胸腔,④脾臓周囲,⑤左胸腔,⑥ダグラス窩の順に液体貯留がないかを検索するものである.FAST陽性であれば緊急処置が必要な可能性が高い.陰性であっても時間をおいて再評価をすることが大事である.
  • これを産科用に修正したFASO(Focused Assessment with Sonography for Obstetrics)(図13)もあり,①子宮内と子宮の形状,②ダグラス窩,③モリソン窩,④脾臓周囲,⑤下大静脈径(10mm未満は循環血液量の著明な減少を疑う)をほかの手技の妨げにならないように1分以内で観察する.
  • 母体の初期評価と安定化が確認できたら胎児・胎盤の評価を行う.胎児心拍の有無や徐脈の有無,妊娠週数が不明の場合は妊娠週数の推定,破水,早産徴候,常位胎盤早期剝離,子宮破裂,胎児損傷(胎児脳出血や肝損傷,腹腔内出血,骨折など),胎児母体間輸血症候群の可能性(MCA-PSVの測定など)の有無について,子宮収縮の有無や頻度などについて触診,内診,超音波検査,CTGなどにより評価する.

図13.FASO(Focused Assessment with Sonography for Obstetrics)