(2)性同一性障害の診療の流れ
・ 性同一性障害の診療は,医療チームであるジェンダークリニックで行われる(図26).精神科医は,本人や家族から,現在の状態や成育歴を聴取して「心の性」を確定,不安やうつなどの精神状態,学校や職場などにおける社会的適応の状態などを考慮して,ホルモン療法や手術療法などの身体的治療のスケジュールをコーディネートする.産婦人科医や泌尿器科医は,①性器の形態などを含めた身体的診察,②性染色体の検査,③ホルモン検査などにより「身体の性」を確定する.この段階で心の性と身体の性とが一致していなければ,性同一性障害の診断がなされる.外部施設の第三者の委員の加わった適応判定会議にて承認されれば,ホルモン療法,手術療法へと進む.
1 )子どもの診療の流れと第2 次性徴抑制療法
・ 子どもの場合,第 2 次性徴が始まり,身体の性や指定された性への違和感が強まることで同性愛か性同一性障害の鑑別診断が容易になる.岡山大学ジェンダークリニック受診者の半数強が「物心ついた頃から」,約 9 割が中学生までに性別違和感をもっていた.中学生は,第 2 次性徴,恋愛,制服などの問題が重なるため自殺念慮が高率となりやすい.初めから本人が保護者と一緒に受診する例は増加しているが,親からの相談,学校からの相談から始まることも多い(図27).
・ 第 2 次性徴が進行した場合,FTM 当事者では男性ホルモン療法を始めることで月経も止まり,身体も男性化していくが,MTF 当事者では女性ホルモン療法によっても,ひげ,がっちりした体型,低い声にあまり変化がみられない.このため,性別違和感の緩和,また,最終的な外見を望む性に近づける目的で第 2 次性徴抑制療法が行われる.そして,医療スタッフは,経過を観察して適切に診断するとともに,保護者や学校と連携を取り支援を開始する.
・ GnRH アゴニスト製剤の長期使用による身体への影響(骨密度など)や同級生の身体の変化との乖離,学業期のため通院が困難,高額な医療費の自費負担など,様々な課題がある.
2 )学校と連携した支援
・ 約 9 割の性同一性障害当事者は,小学生の頃に性別違和感を言葉で伝えることはできず,「封じ込められた」心理状態にある.「自分が何者か分からない」「誰にも分かってもらえない」と感じ,「自分はおかしい」「こんな自分が嫌い」というように,子どもの心の中で「トランスフォビア(性同一性障害への嫌悪感)の内在化」や「自尊感情の低下」が起きやすい.
・ トランスジェンダーの子どもが言い出しやすいように関連図書やレインボーフラッグなどを準備して外来の環境を準備するともに,告白しやすい態度や聞き方を身に着ける必要がある.2015 年の文部科学省の通知では,教職員の研修や医療との連携の必要性を指摘しており,医療スタッフは,教員への情報提供や啓発を推進する役割がある.特に,産婦人科スタッフは,性の多様性やLGBTQ+のことに配慮した性教育やライフプラン教育を行う必要がある.