(2)放射線療法の果たしてきた役割とエビデンス(戸板孝文)
1 )放射線治療とは
・がん治療として100 年以上の歴史を有する.
・手術療法,化学療法とともに,がん集学的治療で重要な役割を果たしてきた.
・手術と同じく局所療法の位置付けである(⇆化学療法)(表2~4).
2 )婦人科がん放射線治療の役割とエビデンス
①子宮頸癌
・根治的治療,手術補助療法(術後照射),救済的治療,緩和的治療のモダリティとして適用される.
・根治的治療(根治照射)は,外部照射(全骨盤照射)と腔内照射の併用で行われる.
・臨床進行期(FIGO)別の5 年全生存率(根治的放射線治療単独)は,Ⅰ期80~90 %,Ⅱ期60~70 %,Ⅲ期40~50 %,ⅣA 期10~20%である.
・Ⅰ-ⅡA 期を対象に手術と比較した無作為比較試験(RCT)で,全生存に差がないことが示され,切除可能例においても根治的放射線治療は標準治療の選択肢である(表4).
・特にⅠB 2 期以上の局所進行例において,CDDP を基本とした同時化学放射線療法(CCRT:concurrent chemoradiation therapy)は,放射線治療単独と比較して全生存を改善するエビデンス(複数のRCT)がある(表4).
・腺癌は,従来放射線感受性が低く根治的放射線治療の適応になりにくいと考えられてきたが,十分な線量を投与しCCRT の適用を検討することで,一定の治療結果を得られる(表4).
・術後照射は,術後再発中リスク例で再発を有意に減少するエビデンス(RCT)がある.術後再発高リスク例に対しても術後CCRT が術後照射単独と比較して全生存を改善するエビデンス(RCT)がある.以上を踏まえ,それぞれ標準治療の位置付けである.
・術後骨盤内再発(術後照射未実施例),術後あるいは根治的放射線治療後の傍大動脈リンパ節再発など,孤発性の再発に対する救済的放射線治療は有効で,二次的な治癒も期待できる.
②子宮体癌
・切除不能進行例の他,高齢者や耐術性の低い患者で根治照射(外部照射と腔内照射の併用)が行われ,一定の根治が得られる.
・術後再発中・高リスク例に対する術後照射の有効性を示す欧米のエビデンス(RCT)があるが,術式および照射様式の異なる日本に,そのまま結果を外挿することは困難であり,標準治療の位置付けにはされていない.
・術後骨盤内再発(術後照射未実施例),特に腟断端部再発の救済的放射線治療は有効で,二次的治癒が期待できる.
③外陰癌
・主に術後照射として行われる.
・高齢者や耐術性の低い患者で根治照射(X 線と電子線の併用)が行われることがある.
④腟癌
・腟および隣接臓器の形態・機能の温存が可能な根治照射(外部照射と腔内照射の併用)が第一選択の治療法である.5 年全生存率は,Ⅰ期70~80 %,Ⅱ期50~70 %,Ⅲ期30~50 %,Ⅳ期0~20%と報告されている.
・臨床試験のエビデンスはないが,局所進行例ではCCRT が推奨治療である.
3 )次世代新治療の見通し(特に子宮頸癌)
①高精度放射線治療の適用と標準化
a.3 次元画像誘導小線源治療(3D-IGBT:3D-image-guided brachytherapy)
・腔内照射や組織内照射のアプリケータを留置した状態で3 次元画像(CT/MRI)を撮像し,腫瘍の大きさや形状に合わせ十分な線量を投与しつつ,周囲正常臓器への線量を軽減した線量分布を3 次元的に作成・最適化した個別化治療が可能である.
・子宮傍組織浸潤が高度な症例では,標準的な腔内照射(タンデムとオボイド)で線量分布が十分に腫瘍をカバーしきれず,腫瘍辺縁部に線量不足の部位が生じてしまう.線量不足が予想される部位に,組織内照射のアプリケータを刺入し照射を追加することにより,腫瘍全体をカバーした線量分布が可能になる(ハイブリッド腔内照射).
・3 D-IGBT は近年日本でも急速に実施施設が増加しており,局所進行例の局所制御率の改善と,早期例での有害事象の軽減が期待される(図10).
b.強度変調放射線治療(IMRT:intensity-modulated radiation therapy)
・これまでの放射線治療データの集積により,腫瘍制御に必要な線量,正常臓器に障害(特に晩期)を生じる線量と体積が,定量的に明らかにされている.これらの線量と体積(dose-volume parameter)を,目標値(goal)・制約値(constraint)として治療計画コンピュータに入力(命令)し,理想の線量分布を達成するための逆方向計算(inverse planning)を行い,その結果を基に照射を行う高精度放射線治療である.
・術後照射(全骨盤照射)への適用で,腸管被曝線量を低下させイレウスなどの有害事象が低減したとのエビデンスが集積されつつある.
・根治的放射線治療への安全かつ効果的な適用に向けては,治療中・治療ごとの体内臓器位置変動や,治療期間中の腫瘍縮小に伴うターゲット変化に対応する適応放射線治療(ART:adaptive radiotherapy)の成熟が課題である.
②免疫療法との併用
・複数病変のうち1 病変に放射線を照射し,照射部位のみならず非照射病変も縮小する現象(Abscopal 効果)が,非常に稀ではあるが古くから報告されてきた.
・メカニズムとして,照射による何らかの宿主免疫の活性化が関与すると考えられてきた.近年,腫瘍特異的な抗腫瘍免疫の誘導と活性化が明らかにされてきている.
・放射線治療による抗腫瘍免疫誘導と免疫チェックポイント阻害薬(抗PD- 1・PD-L 1抗体,抗CTLA- 4 抗体など)を併用する相乗効果が,臨床データで示されつつある.CCRT に免疫チェックポイント阻害薬を併用する臨床試験が主に肺がんを対象に進行中である.
・1 回線量が大きいほど抗腫瘍免疫の誘導が大きいとのデータもあり,肺癌などの体幹部定位放射線治療(SBRT)と同様に,婦人科癌での腔内照射や組織内照射などとの親和性も高い可能性も考慮される.
・「遠隔転移予防効果がない局所治療」という放射線治療の弱点を克服し,さらに長所に変える,大きなブレークスルーも期待される.