(2)産婦人科における遺伝性腫瘍

・ 遺伝性腫瘍には多種多様なものが存在し,それぞれ複数の悪性腫瘍を合併することが知られている.その中から産婦人科とかかわりの深い遺伝性腫瘍を表28 に示す.

・ 卵巣癌患者全体の15.3%に HBOC の原因遺伝子である BRCA の遺伝子バリアントが存在するとの欧米の報告もあり1),HBOC は産婦人科に関連する遺伝性腫瘍の代表であると同時に,その基礎的研究,臨床における治療やマネージメント指針の策定,そして社会的認知のいずれにおいても最も進んだ遺伝性腫瘍である.
Lynch 症候群はミスマッチ修復(MMR:mismatch repair)遺伝子の生殖細胞系列バリアントを原因とし,大腸癌と子宮体癌が代表的な関連悪性腫瘍で,女性における 70 歳までの累積発症率はそれぞれ30~52%,28~60%である2).免疫チェックポイント阻害薬であるペムブロリズマブ(製品名:キイトルーダⓇ)の使用を目的としたコンパニオン検査として 2018 年 12 月に保険収載されたマイクロサテライト不安定性(MSI:microsatellite instability)検査は,MMR 遺伝子の機能異常によるDNA複製エラーを反映する指標である.ただし,MSI 検査は癌組織(体細胞系列)での評価であり,高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)の存在のみでLynch症候群の確定診断に至るわけではないことに留意が必要である3).全癌腫におけるMSI-High の16.3%が Lynch 症候群であると報告されている4).
Peutz-Jeghers 症候群は消化管の過誤腫性ポリポーシスと粘膜皮膚色素沈着を特徴とする疾患である.子宮頸部腺癌の中でもヒトパピローマウイルス非関連の腫瘍で,予後不良の一群として報告されている胃型粘液性癌(かつての“悪性腺腫”や“最小偏倚型”を包含する組織型)が関連し,同症候群の15~ 30%に合併すると報告されている5).
Cowden 症候群は様々な臓器に発生する複数の過誤腫を特徴とする遺伝性腫瘍で,婦人科悪性腫瘍の中では子宮体癌が最も関連している.一般集団では生涯で子宮体癌に罹患するリスクは2 ~ 4%であるが,同症候群では5~ 10%と報告されている6).
・ 一般診療では,現病歴や既往歴,家族歴,理学所見から患者が遺伝性腫瘍であることをまず疑った上で,その後の検査と診断を進める.通常の検診よりも詳細な婦人科癌サーベイランスを行い,診断後にはリスク低減治療を含めた高次元の対応が求められる.HBOC を例として,診断からその後のマネージメントの流れについての概要を 図21 に示す7).