(2)管理の実際
1 )喘息の予防
- 気管支喘息を有する女性においては妊娠成立前に適切な加療が開始され,良好なコントロールが得られていることが望ましい.
-
喘息のコントロールが良好とは,
- 日中・夜間ともに喘息症状がない
- 発作治療薬の使用がない
- 運動を含む活動制限がない
- 病勢の増悪がみられない
のすべてを満たし,かつ - 呼吸機能検査で一秒量(FEV1)が予測値あるいは自己最良値の80%以上,ピークフロー(PEF)の日内変動が20%未満である
こととされる1).
- 現在汎用されている抗喘息薬のほとんどは妊娠中も安全に使用できる.気管支喘息と診断されている女性に妊娠が成立しても発症予防薬を中止しないこと,中止させないことが重要である.
- 妊娠中の発症予防法は非妊娠時と同様で,長期管理薬としては吸入ステロイド薬(ICS)[例:パルミコートタービュヘイラー®,フルタイドディスカス®]が第一選択となる.ICS単剤ではコントロールが不十分な場合に吸入長時間作働性β2刺激薬(LABA)や吸入長時間作働性抗コリン薬(LAMA)の併用が行われてきたが,近年ではICS-LABA配合剤[例:シムビコートタービュヘイラー®,アドエアディスカス®]がよく選択されている.
- 喘息発作の危険を避けるための生活指導としてはインフルエンザワクチンの接種,床や畳,寝具の掃除によるダニの減量,ペットアレルゲンの除去,室内暖房器具の見直し,マスク着用などが挙げられる.
- 喫煙は喘息の発病,増悪との量依存的な関連が明らかである.不完全燃焼の結果生じる副流煙の方が有害物質の含有量が高く粘膜刺激作用が強い.喫煙している女性の約7割は妊娠を契機に喫煙を止めるが,同時に禁煙する配偶者はわずかに5%程度なのが現状であるため,夫をはじめとした同居家族に対して強く禁煙を勧める必要がある.
2 )喘息の治療
- 喘息発作の治療法も非妊娠時と同様で,「喘鳴/ 胸苦しい」あるいは「軽度(小発作)」 (表9)では短時間作働性β2 刺激薬(SABA)[例:メプチンエアー®]の吸入が第 一選択となり,奏効しない場合にICS[例:パルミコート®]の吸入を追加する.
- 胎児低酸素血症を防ぐためには母体のSpO2 を95%以下にしない,すなわち中等度 以上の発作を持続させないことが重要である.中等度以上の発作に対しては速やか な内科医療機関,可能であれば喘息専門外来の受診を勧め,それまでの間は酸素投 与を継続し,可能であればSABA のネブライザー吸入を試みる.
- 咳喘息の治療も気管支喘息と同様だが,胃食道逆流の改善が症状緩和につながるこ とがある.
- 適切な管理がなされていれば妊娠合併症の危険は一般集団と同程度であるが,妊娠 32 週以降で喘息発作を頻回に繰り返す場合は,定期的な胎児心拍数モニタリング の施行を推奨するとの意見もある.一般に喘息がターミネーションの適応となるこ とはなく,分娩時もプロスタグランジン製剤を避ける以外に特段の注意は必要ない. また分娩後に授乳を避ける必要はない.
文献
- 1)日本アレルギー学会.アレルギー総合ガイドライン2019,成人喘息.東京,協和企画.16-123,2018