(2)ISRR の分類
・ ISRR には,大きく分けて,接種前から接種時および接種直後( 5 分未満)に発症する急性反応と,接種後数日程度経過してから発症する遅発性反応とがある.
・ 急性反応にはストレスにさらされた際に交感神経系が活性化した結果として起きる狭義の急性ストレス反応と,これに対する防御機制として副交感神経系が代償的に活性化した結果として起きる血管迷走神経反射の 2 パターンがある(図4).この2つには共通の症状もあるが,循環器系の症状は正反対なので,これに着目することで鑑別が可能である.また,意識消失は血管迷走神経反射で起こり得るが,接種後のアナフィラキシー反応でも生じ,両者では取るべき処置も重篤度も全く異なることからその鑑別も重要なので後に表13 で述べる.
・ 遅発性反応としては解離性神経症状反応(DNSR:dissociative neurological symptom reactions)があり,これは様々に知覚および運動が障害されているが,器質的な原因が同定できないという特徴がある.国際疾病コード第 11 版(ICD- 11)には解離性神経症状障害(DNSD:dissociative neurological symptom disorders)として記載され,変換症(転換性障害)並びに機能性神経症状障害と呼ばれることもある.ここであえて,解離性神経症状「反応」(reaction)という語を使い,ICD- 11 に準拠した解離性神経症状「障害」(disorders)の語を避けているのは,ICD- 11 の定義に該当しない一過性の症状も含めて幅広く包括的に接種後の反応としてとらえるためである.なお,DNSR の中で接種後おおむね 7 日以内に発症したものが,接種ストレスに関連する可能性があると考えられている.
・ 予防接種後の失神を伴う血管迷走神経反射については,表9 の最上段に示すようなデータがある.ワクチン接種による発生率に大きなばらつきがあるが,これは症例の確認および定義,サーベイランスの方法などの相違によると考えられる.DNSR,心因性非てんかん性発作( DNSR の一亜形)については,予防接種とは無関係に発生するものについて記載のような報告がある.また,これらは予防接種後の有害事象として因果関係が確認されなくても報告されるが,発症頻度としては不明である.なお,心因性非てんかん発作は年齢的には思春期を含む年齢層で頻度が高く,性別では男性より女性に多発することが知られている.