ポイント
- 妊娠中に乳癌に罹患した場合,乳腺の増加により発見が遅れ早期発見が遅れることがある.妊婦が産科外来で乳腺の異常なしこりを訴えた場合可及的速やかに専門医での診察を行うことが重要である.早期に発見された場合には決して予後は悪くなく,妊娠中の手術療法も非妊婦と同様に行われている.
1)乳癌合併妊娠の病態
- 妊娠期乳癌は比較的稀であるが,出産年齢の高齢化乳癌罹患率の上昇でわが国でも増加傾向にある.
- 乳癌合併妊娠の定義については妊娠期+出産後1年とする報告が多いが,妊娠に乳癌が合併する割合は0.2~3.8%とされている9).
- 妊娠合併乳癌の予後については発見の遅れが問題とされているが,『乳癌診療ガイドライン』では妊娠期乳癌が予後不良とは結論づけることはできないとされている一方,授乳期の乳癌の予後が不良であることはほぼ確実であるとされている10).
2)診断の手順
①視触診
- 妊娠中はホルモンの影響により乳腺組織が増殖し密になり視診や触診での発見が困難になる.
②乳癌検診
- 妊娠中の乳癌検診については,乳腺組織が密になった状態でのマンモグラフィでの乳癌発見頻度は低下するといわれている.マンモグラフィの胎児への被爆はほとんど影響ないといわれているが,超音波検査を用いた検診が頻用されているようである.
③細胞診・針生検
- 胎児への影響はなく,妊娠の時期にかかわらず安全に実施することができる.
④高次施設へのコンサルティング
- 産科外来で妊娠中に乳房のしこりに気づいた場合には速やかに乳腺外科にコンサルティングすべきである.
3)実際の管理
①手術療法
- 『乳腺治療ガイドライン』11)では妊娠中でも手術は勧められるとされるが,乳房部分切除を施行する場合には,放射線の影響を考えなければならない.つまり,妊娠後期乳癌の場合には乳房部分切除を行い,産後に術後放射線療法を行えばよいが,放射線療法を出産まで待てない場合には乳房全摘出術を考慮する.
②授乳期の管理
- 治療前にカベルゴリンやブロモクリプチンなどの内服によりあらかじめ乳汁分泌を止めることが勧められる.
③化学療法
- 妊娠前期(14週未満)の化学療法は勧められるべきではないが,妊娠中期以降の化学療法は,長期の安全性が確立されていないものの,必要と判断される場合には検討してもよい.
④内分泌療法
- 妊娠前期では催奇形性,妊娠中期以降では胎児の機能的への影響から使用は避けるべきである.
⑤抗HER2療法およびその他の分子標的療法
- 妊娠期乳癌に対する抗HER2療法の安全性は確立されていない.
文献
- 9)Gemignani ML, Petrek JA, Borgen PI. Breast cancer and pregnancy. Surg Clin North Am. 79: 1157-1169, 1999
- 10)日本乳腺学会編.乳癌診療ガイドライン2022 年版 疫学・診断編.東京,金原出版.2022
- 11)日本乳腺学会編.乳腺診療ガイドライン2022 年版 治療編.東京,金原出版.2022