(3)子宮腺筋症合併不妊への対応
主訴:挙児希望(2 年間不妊).
画像上子宮腺筋症を認める.不妊の原因は不明.過多月経や月経困難症を認めない.一般的な不妊治療を行っているが妊娠に至らない.
1 )ここがポイント
・子宮腺筋症合併不妊女性に対して,子宮腺筋症の治療と不妊治療のいずれを先行するかについて定まった見解はない.
・子宮腺筋症が不妊原因と思われる場合や,月経痛や過多月経などの月経随伴症状が高度な場合には,子宮腺筋症に対する治療が必要である.
・妊孕能温存を希望する場合,子宮内膜症に準じた内分泌療法が行われるが,内分泌療法のみでは限界がある.腺筋症病巣が限局性で,病巣を摘出した後に子宮筋層の修復が可能である場合は,子宮腺筋症摘出術も選択肢の1 つである.
・高年齢の女性の場合には,手術療法のベネフィットのみならず,術後避妊期間中の経年的な妊孕能低下のリスクについてもインフォームドコンセントを行い,個々に治療方針を検討する必要がある.
2 )治療の実際
・患者にART の希望がある場合には,まずはART を先行してもよい.
・子宮腺筋症が不妊原因の可能性があり,腺筋症病巣は限局性であることから,子宮腺筋症摘出術の適応でもある.
・子宮腺筋症摘出術を行った場合,術後は避妊期間をおいて妊娠を計画する.
年齢が比較的若いため,術後は自然妊娠の可能性もあるが,腺筋症の再発に注意して早めに不妊治療計画を立てることが重要である.
・仮に年齢が38 歳と高年齢であった場合には,術後の避妊期間中の経年的な妊孕能低下を考えて,腺筋症摘出術の前に採卵を行い,凍結胚を確保しておくことを検討する.
3 )子宮腺筋症合併不妊の治療方針
・子宮腺筋症では,妊娠率の低下,流産リスク上昇が報告されている.機序としては,子宮腔の変形や内腔の蠕動の異常,子宮内膜の異常,子宮腔内の活性酸素の変化などが原因ではないかと考えられている.
・子宮腺筋症合併不妊の治療方針について定まったものはないが,手術療法のリスクとベネフィットを鑑みた方針をフローチャートにまとめた(図52).
・月経随伴症状なしまたは軽度の場合には,まずは不妊治療を先行する.
・妊娠成立がない場合には,子宮腺筋症が不妊原因である可能性があるため子宮腺筋症に対する治療を行う.
・腺筋症病巣が限局性の場合には腺筋症摘出術を行い,避妊期間後に妊娠を計画することや,病巣がびまん性の場合にはGnRH アゴニスト療法で病巣縮小をはかった後に不妊治療を行うことも選択肢として挙げられる.
・妊孕能の低下がみられ始める35 歳以上の事例では,不妊治療の早期ステップアップを検討する.また,腺筋症摘出術後の避妊期間中の経年的な妊孕能低下が懸念されるため,手術前に採卵を行うことも検討する.
4 )挙児希望がある場合の子宮腺筋症に対する治療
①薬物療法
子宮腺筋症に対する薬物療法は,GnRH アゴニスト,ジエノゲスト,LEP 製剤がある.これらの内分泌療法は排卵を抑制することから,挙児を希望する女性には使用しにくい.また,ジエノゲストやLEP 製剤では,症状の改善は図れるものの,腺筋症病巣の縮小効果は期待できない.一方で,GnRH アゴニスト療法では腺筋症病巣は著明に縮小することから,子宮腺筋症合併の不妊女性においてGnRH アゴニスト療法後の妊娠例が報告されており,妊孕能改善効果が期待できる.
②子宮腺筋症摘出術
・表17 の条件を満たした場合,腺筋症摘出術の適応と考えられる.
・臨床効果・妊娠率は67 頁「3)手術療法」⑤の項を参照.
・腺筋症摘出術後妊娠では,子宮破裂や前置胎盤や癒着胎盤などの胎盤異常がみられることがあるが,手術でどの程度の腺筋症を切除するかについて明確な指針はない.
腺筋症摘出術後妊娠においては子宮破裂のリスクが上がることを念頭に入れ,病巣切除範囲の決定は慎重に行うべきである.術後は3~6 カ月の避妊期間を置き,分娩方法は選択的帝王切開とすることが多い.