- わが国で妊娠中に処方可能な降圧薬・関連薬剤を表3に示す.
- 非妊娠時から高血圧の診断を受けてアンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACE-I)・アンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)の投与を受けている女性が妊娠した場合は,内科と連携して妊娠初期(妊娠14週未満)のうちにほかの降圧薬へ変更する.
- 妊娠後期での加重型妊娠高血圧腎症の発症を有意に減少させるとして低用量アスピリン1錠/日内服の有用性が示されつつあり,副作用も少ないことから早期より使用することを考慮してよいとする報告もある.ただし,本邦では保険適用外・適応外の使用となるため,患者に説明をし,同意を得た上で処方することが必要である.
- 降圧目標については世界規模での研究が続けられているが,近年のエビデンスからは「正常域までしっかり降圧する方が母児とも予後がよい」ことが分かっている.ただ過降圧が児に与える影響は無視できないので,カルシウム拮抗薬を開始する際は外来/入院での胎児心拍数モニタリングの施行も考慮する.
- 降圧薬の授乳への影響はないことが日本高血圧学会からも提言されており,通常の産後ケアの中で処方を続行してよい.
- 高血圧に罹患する女性が過去に妊娠高血圧症候群を経験している率が高いことはわが国のコホート研究でも証明されているが,妊娠中の高血圧を治療することで加齢後の発症が減るかどうかについてはエビデンスがない.明らかなのは妊娠前からしっかり加療して無治療の罹病期間を短くするプレコンセプションケアと,産後生涯にわたる定期フォローが重要なことである.