(3)小児がん患者に対する妊孕性温存療法の種類と特徴

・ 妊孕性温存とは,将来妊娠の可能性が消失しないように生殖機能を温存する考え方である.
・ 女性の悪性疾患患者における妊孕性温存療法選択時のフローチャートを図22に示す.

1 )卵子(未受精卵)凍結

・ 卵子(未受精卵)凍結では,卵胞刺激ホルモン(FSH:follicle stimulating hormone)および黄体形成ホルモン(LH:luteinizing hormone)を含んだゴナドトロピン製剤による調節卵巣刺激で卵巣内の卵子を発育させ,採卵し,得られた卵子を凍結する.
・ 卵子(未受精卵)を凍結するには,2 ~ 4 週間の時間が必要である.
・ 将来の婚姻関係に柔軟に対応できる.
・ 原則的には経腟的操作が必要であるため,小児への適応が困難であるが,初経開始以降の女児に施行できる可能性がある.
・ 胚(受精卵)凍結の融解胚 1 個あたりの妊娠率は約20%程度という報告に対し,卵子(未受精卵)凍結の融解卵子 1 個あたりの妊娠率は4.5~12%であり,一般的に胚凍結よりも卵子凍結の方が妊娠率は低く,さらに凍結あたりの生児獲得率は年齢に応じて低くなる.
・ 妊娠率を考慮すると,少しでも数多くの卵子凍結をしておくことが最良である.

2 )卵巣組織凍結

・ 卵巣組織凍結では,腹腔鏡手術を用いて卵巣組織の一部もしくは卵巣そのものを摘出し,原始卵胞が存在する皮質(卵巣組織)を凍結する.そして,原疾患の治療が終了し,原則として寛解後に,凍結されていた卵巣組織は,腹腔鏡によって再び移植され,自然妊娠や生殖補助医療による妊娠が試みられる.
・ 本邦と米国においては研究段階の妊孕性温存療法であるとされているが,欧州では研究段階と判断されていない.
・ 対症疾患によって,微小残存病変(MRD:minimal residual disease)のリスクがある.
・ 卵巣移植する組織内にMRD が含まれている場合(造血器腫瘍や卵巣癌など),移植時にがん細胞も体内に再移入してしまう可能性がある.移植組織の一部を病理学組織学的検査などによる事前検査を施行した後移植することになるが,現時点で凍結保存されるすべての卵巣組織を対象として事前検査でMRD を確認する手段はない.
・ MRD を回避するため,卵巣内の未熟な卵胞を体外に取り出し,体外発育・成熟させる技術や,人工卵巣シートに未熟な卵胞のみを加える技術など,新しい技術が報告されつつある.
・ 月経周期に関係なく短期間に卵巣組織採取が可能であり,初経開始前の女児においても施行可能な妊孕性温存療法となる.

3 )卵巣位置移動術

・ 放射線照射に伴う卵巣機能障害を軽減させるために,放射線治療開始前に照射野外へ卵巣を移動させる方法.
・ 成功率は約50%(血流障害と側副被曝の影響による).
・ 照射直前での実施と術後再手術が必要.

4 )GnRH(gonadotropin releasing hormone)アゴニストによる卵巣保護

・ 化学療法は,細胞分裂が活発な細胞に影響を与える.つまり,がん細胞のみならず骨髄細胞や卵胞発育に伴い細胞分裂が活発となる顆粒膜細胞などにも障害を与える.
・ GnRH アゴニストによって,下垂体GnRH レセプターのダウンレギュレーションが生じ,ゴナドトロピン(FSH,LH)分泌が減少した結果,卵胞の発育が止まり,エストロゲン産生が低下する.すなわち,偽閉経状態(卵胞発育が休止する状態)となる.このように卵胞発育を休止状態とすることで,抗がん薬に対する感受性を低下させることを期待した,GnRH アゴニストによる卵巣保護の有効性が報告されているが,一定の見解は得られておらずエビデンスが確立されていない.
・ 月経発来後若年成人が対象の報告であるため,小児に適応できるかどうかは今後の研究結果が待たれる.