(3)機能温存手術への挑戦(櫻井 学)

1 )子宮頸癌

①妊孕能温存手術の現状

a.円錐切除術

・適応
子宮頸部上皮内腫瘍(CIN:Cervical Intraepithelial Neoplasia)3
上皮内腺癌(AIS:Adenocarcinoma In Situ)
子宮頸癌ⅠA 1 期

子宮温存のポイント
・ 摘出標本での病変の進展度と範囲
・ 子宮頸癌ⅠA 1 期では,「脈管侵襲なし」「断端が陰性」「子宮頸管内掻爬の組織診断が陰性」のすべてが満たされる場合

b.レーザー蒸散術

・円錐切除より良好な妊娠予後を重視した術式.
・婦人科腫瘍専門医による高度な診断精度(コルポスコピー,組織像,MRI)が必須.
・AIS に対しては適応がない.

c.広汎子宮頸部摘出術

子宮頸癌ⅠA 1 期(脈管侵襲あり)ⅠA 2 期,ⅠB 1 期で「リンパ節転移なし」「腫瘍
径2㎝以下」「扁平上皮癌,腺癌,腺扁平上皮癌」に適応.
・実際の妊孕能温存率は70~90 %,妊娠率は30~50%,3rd trimester の分娩率は70%.

②子宮頸癌合併妊娠の治療

妊娠中の子宮頸部細胞診異常→妊娠女性の1~5%.
浸潤癌の頻度→妊娠10 , 000 当たり1~12%.

① CIN 3
・分娩後まで円錐切除を延期可能.
② AIS およびⅠA 期疑い
・円錐切除を考慮.術後は,妊娠週数を考慮した追加治療を検討.
③ⅠB~Ⅱ期
・直ちに妊娠を終了し,標準治療を開始.治療開始時期は個別の対応が必要.

③未来への展望

治療用ワクチン

 アメリカでは治療用ワクチンの第2 相試験が終了している.CIN 2 – 3 のHPV 16 型および18 型E 6・E 7 蛋白をターゲットとしたワクチンの投与で,病理組織学的な退縮やHPV の排除がみられると報告されている.妊孕性温存のためには,子宮に傷が加わらない治療が理想であるため,今後の発展が期待される.

子宮移植

 スウェーデンでは2014 年までに11 例に生体間の子宮移植を行っており,約半数で出産に至っている.本邦でもカニクイザルでの成功例があり,今後の普及が期待される.

2 )子宮体癌

①妊孕能温存手術の現状

対象)

・子宮内膜異型増殖症(AEH:Atypical Endometrial Hyperplasia)
・子宮内膜に限局した類内膜癌でG 1 相当のもの(EC)

 高用量プロゲステロン(MPA 600 ㎎/日)により,AEH の82 %,EC の55 %で病変消失.
 AEH の38 %,EC の57%で再発.再発,非消失,進展例では子宮摘出が推奨される.
 妊孕性温存例での排卵誘発.
 妊孕性温存の目的は生児を得ることであるが,排卵誘発時には再発リスクにも注意を払う.
hMG-hCG 療法:子宮体癌発症リスクは変わらない.
クロミフェン:構造がタモキシフェンと類似→発症リスクを示唆する報告がある.

②未来への展望

Levonorgestrel intrauterine system(LNG-IUS)

 LNG-IUS を用いた前向き試験で,有効性を示唆する報告がある.

子宮移植

 これらの進歩により,妊孕性温存率の向上や子宮摘出例での妊孕性の復元が期待される.

3 )卵巣癌

①妊孕能温存手術の現状

対象)

・漿液性癌,類内膜癌,粘液性癌で,進行期ⅠA 期およびgrade 1 または2.
・ 非特殊型のⅠC 期(片側限局かつ腹水細胞診陰性)およびgrade 1 または2,あるいはⅠA 期の明細胞癌.

術式)

患側付属器摘出+大網切除術+腹腔細胞診±対側卵巣の生検,骨盤・傍大動脈リンパ節生検(廓清),腹腔内の生検
・境界悪性腫瘍では,患側付属器摘出+大網切除術+腹腔細胞診+腹腔内精査を考慮.
・子宮摘出や両側付属器摘出などの基本術式と比較すると再発率が高いため,妊孕性温存の希望がなくなった時点での基本術式の完遂も考慮する.

②卵巣癌合併妊娠に対する治療

・妊娠中の卵巣悪性腫瘍の合併率は12 , 000~25 , 000 妊娠に1 例.
・患側の付属器摘出を行う.施行時期,追加の術式は,妊娠週数などを考慮して個別に判断する.化学療法は,妊娠中期・後期であれば非可逆性後遺症の心配は少なく施行可能.

③未来への展望

妊孕性温存の対象拡大

 本邦では現在,ⅠC 期(片側)非明細胞癌のgrade 1 と2,ⅠA 期明細胞癌への妊孕性温存を前方視的に検討するJCOG1203 が進行中であり,その結果が待たれる.

診断精度の向上や卵子温存の適応拡大

 卵巣腫瘍の治療の問題点は,永久標本で診断が確定する点にある.卵巣の予備能力を考慮すると,不要な手術は避けるべきで,画像検査や新たなバイオマーカーの検出など診断精度の向上が望まれる.また,付属器摘出が避けられない場合などに,卵子の凍結保存の適応を拡大することで,将来的な妊娠への希望を残すことも考慮する.