(4)「痛み」とその軽減のためのアプローチ
・ 痛みとは感覚的なものと感情的なものによって左右される主観的な体験である.接種部位の感覚神経が疼痛によって刺激されると,その刺激は中枢神経のはたらきにより修飾を受け,さらには自律神経系に作用することもある.そして痛みは様々な程度の精神的苦痛を与えるので予防接種に対するストレス反応のなかで重要な位置を占める.予防接種は「ちょっと針を刺すだけ」と簡単にとらえられることもあるが,特に針や痛みに恐れを抱く被接種者にとっては相当な苦痛を伴う体験であり,それを軽減するために最大限の注意を払うべきである.「予防接種による痛み」と言っても単純なものではなく,①針の刺入時の痛み,②薬液を注入する時の痛み,③針を抜いた後に接種部位に残る痛みの少なくとも 3 種類を考慮する必要がある.
・ 表11 に箇条書きにした因子により痛みの程度は左右され,これらのうち接種する医療者がコントロールできる部分については,できるだけ痛みを軽減できる接種手技と接種前後の言動をとることが,ISRR 発症のリスクを低減することにつながる.
・ ISRR マニュアルには新生児から成人まですべての年代に対して,接種時の痛みの軽減のためのアプローチが記載されているが,ここでは思春期についての記載のみ抜粋して紹介する(表12).
・ このようなアプローチに加えて,医療者と被接種者の信頼関係が構築された状態で接種することは特に重視すべきである.そのためには正しい具体的な情報を丁寧に説明し(説得ではなく,説明を行う),質問の機会も与えて理解度を確認する,受容的な態度で接する,接種終了後は十分にねぎらって褒める,感想を聞いて次回の接種に活かす,接種後に気を付けることを説明するなど,医療者側にきめ細やかな心遣いが求められる.
・ 標準的には接種時の体位については上半身立位(坐位)を推奨している.また「姿勢と処置」の欄に ISRR マニュアルには external vibrating device with cold という記載がある.これは,接種を受ける肢に振動や冷感を与えて感覚神経に刺激を与えることで接種に伴う痛みを相対的に低下させるためのデバイスの活用を提案していると思われるが,本邦ではそのような医療機器は実臨床で使用されていないため,表12 には記載しなかった.