(4)子宮腺筋症合併妊娠への対応
子宮腺筋症合併妊娠は高年齢出産の増加や不妊治療の技術の向上などから今後増加すると思われる.子宮腺筋症合併妊娠についてのまとまった報告は未だに少ないが,代表的な腺筋症合併妊娠の例を挙げ解説する.
IVF にて妊娠成立した.妊娠前よりびまん性の子宮腺筋症を指摘されていた.妊娠18 週に胎胞の膨隆を認め緊急入院となり,妊娠19 週に破水を認め,その後子宮収縮が抑制できず流産となった.
産後2 日より体温38 . 0 度に上昇し,子宮の圧痛とともに,WBC 26 , 000 /μL,CRP 20㎎ /dL に上昇し子宮内感染と診断した.抗菌薬を10 日間投与し,産後14日目に退院となった.
ICSIにて妊娠成立した.子宮後壁に5㎝大の子宮腺筋症を認め,胎盤は子宮腺筋症に一致して形成された.妊娠23 週頃より胎児発育不全(FGR:fetal growth restriction)を認め,妊娠30 週より収縮期血圧が140㎜Hg 台に上昇し,妊娠高血圧症候群(HDP:hypertensive disorders of pregnancy)の診断で,ラベタロール150 ㎎を内服開始した.妊娠33 週にFGR が- 2 . 9 SD に増悪し管理入院となり,妊娠34 週に胎児機能不全の診断で緊急帝王切開となった.児は1 , 768 g,Apgar スコア1 分値7 点,5 分値10 点,臍動脈血液ガスpH 7 . 381,低出生体重児のためNICU に入院となった.母体の術後経過は良好で術後6 日で退院となり,児は日齢24 日に退院となった.
1 )ここがポイント
・子宮腺筋症合併妊娠についての報告は未だに少ないが,近年の報告では表18 に示すような産科合併症が増加するといわれている.
2 )子宮腺筋症合併妊娠の問題点
・子宮腺筋症を合併とで発症し得る病態をまとめると図53 のように図示できる.
・後期流産は,事例1 のように頸管無力症を発症し流産が進行する場合と,子宮内胎児死亡となる場合があり,びまん性の子宮腺筋症で頸管無力症がより発症しやすいとの報告もある.これらの報告によると子宮腺筋症合併妊娠のおよそ10%が妊娠12 週以降の後期流産に至るとされる.
・早産に関しては前期破水や自然早産も増加するが,上記のような産科合併症による早期娩出のために医原性の早産も増加し,およそ25%が早産に至ると報告されている.前期破水や自然早産の増加は,腺筋症に内在する慢性炎症や物理的な子宮内圧の上昇が関与している可能性があるが,病態の解明には至っていない.
・また事例2 のように子宮腺筋症合併妊娠ではHDP やFGR の合併をしばしば経験する.HDP は子宮腺筋症合併妊娠の9 . 9~30 %程度に発症するとされ,発症時期はFGR を伴い20 週台から発症するものから妊娠後期や産褥発症など多岐にわたるが,病型別にみると妊娠高血圧腎症の発症が多い可能性がある.これに関連して,FGRの頻度も上昇すると報告されている.これらのことから子宮腺筋症は胎盤の形成過程に何らかの異常をもたらす可能性が示唆される.
・子宮腺筋症は高年妊娠でより合併率が高いためART 妊娠が多くなる傾向にあるが,ART の影響だけでなく子宮腺筋症そのものが胎盤位置異常の発生にかかわっている可能性も指摘されている.
・これらの産科合併症が増加することから,子宮腺筋症合併妊娠では帝王切開率が上昇し,6 割程度が結果として帝王切開での分娩が必要となると報告される.
・上記以外に臨床上留意する点として,経腟分娩,帝王切開,子宮内容除去術などの後に子宮内感染を疑う発熱や炎症マーカーの上昇を経験することがある.これが細菌などの上行性感染なのか,子宮腺筋症そのものの炎症の一過性の増悪であるかは不明であるが,抗菌薬を投与し1~2 週間を症状の改善に要するため,子宮内操作を行う場合は注意して経過観察をしなければならない.
・その他にも,子宮腺筋症に伴う血栓傾向や血液凝固異常が指摘されており,流産後や子宮内容除去術後にDIC(disseminated intravascular coagulation)や血栓症を発症することもあると報告されているため,これらの処置の際は留意が必要である(表19).
・子宮腺筋症摘出後妊娠についての報告は少ないが,子宮破裂に留意する必要がある.西田らの報告では子宮破裂は子宮腺筋症摘出後妊娠の2 . 3 %で発症するとされている.