(4)産婦人科医が行う性教育
・ 産婦人科医として新しい検査法や治療法などの医学知識を伝えることは基本であるが,予期せぬ妊娠,性感染症を防ぐための知識を伝えることは最重要事項である.
・ 実際の教育内容を以下に抜粋した.
性の多様性
思春期に起きてくる身体と心の変化
マスタベーション
性ホルモンの特性
女性のライフスタイルの変化
出産数の減少と初産の遅延
そのことによって増えた疾患(子宮内膜症・子宮筋腫・卵巣癌・子宮体癌など)
妊娠の仕組みと週数の数え方
避妊と中絶,ピルについて
性感染症
子宮頸癌とHPV,ワクチン
性の自己決定権,ジェンダーイクオリティ
・ 時間は 1 コマしかない.高校は 50 分が 1 コマだが,前後に養護教諭や担任教諭からの話が入ることもあり,質疑応答を除き講義の時間は 40 分程度となる.中学校だと「 30 分でお願いします」,と言われることもある.その時間ですべてを話すことはできないので,事前の打ち合わせが重要になる.保健の時間で基本的な知識は教えておいてもらう,その学校で問題が起きているとしたらそこを重点的に扱うなどの工夫が必要で,基本的に何を話すかは担当医の裁量に任せることになる.
・ 日本産婦人科医会では,ホームページから標準スライドをダウンロードできる.東京産婦人科医会にも標準スライドはあるが,希望者に個人的に送っているだけで,ホームページには掲載していない.数年ごとに改訂はしている.担当医は標準スライドを使うこともあるが,それぞれが工夫を凝らしてオリジナルスライドを作成している.ただ担当医ごとに全く違う話をしているということではなく,思春期の子どもたちの健康を守るという目的のもと,早いうちからの月経困難症への介入の必要性,ピルの活用,中絶は女性の権利であることなど基本的なスタンスは共有している.
・ 最近では,正しい知識を伝えるだけではだめで,それを生かせる関係性を作ることの大切さ,対等な人間関係の作り方も話すようにしている.コミュニケーションの大切さであり,いじめ問題にもつながることである.今までは「 SNS ではなく,生身の人間同士の触れ合いを」と言っていたが,今後は SNS の正しい使い方,そこから作る人間関係について教えていかなければならないかもしれないが.
・ 上記表の最後にある「性の自己決定権,ジェンダーイクオリティ」は,特に日本ではジェンダー格差指数も年々低下し,決して女性が生き生き活躍できる社会ではないと思われ,その根底に「産む性」ということで生じる様々な問題が存在していると思われる.それらの問題を解決するために,性教育の場においても,産む・産まないの選択が本人ではなく外的要因で決まってしまうケースや,妊娠や月経のトラブル,社会の中の性差による差別などを一緒に考えていく時間にしている.