(4) 不安症/ 不安障害:Anxiety disorder,強迫症/ 強迫性障害:Obsessivecompulsive disorder,適応障害:Adjustment disorder
ポイント
- 薬物療法が必要なこともあるが,不安の要因に対して理解し,傾聴・共感した上での精神療法が主体になる.
- ベンゾジアゼピン系抗不安薬の,妊娠中や産後の,特に長期使用の効果については胎児や新生児へのデメリットの方が大きい可能性があるので,可能であれば,妊娠前の時点での減量・中止や他剤への変更を考慮する(変更できない場合は葉酸400㎍/日を併用する).
- 出産恐怖症(トコフォビア)の女性は無痛分娩を希望することが多いが,陣痛の痛みが軽減しても恐怖自体は軽減しないことが多く,スタッフの支援が重要となる.
症例
産後3カ月から育児困難および抑うつを感じるようになり,産後うつ病の軽症と診断され,抗うつ薬の処方および公共育児サービスなどの利用手続きが行われた.その後,思考や決断力などの精神活動抑制症状や日常生活への支障などは認められなかったものの,自覚症状が変わらなかったことから,改めて精神科医による聴き取りが行われた.その結果,生育歴に原因がある育児(というストレス因子)に対する葛藤や不安による適応障害と診断され,心理カウンセリングによって症状は軽減した.
解説
1)不安症カテゴリー群の病態
- DSM-5分類では,不安症,強迫症,PTSDなどが含まれるストレス関連障害群が不安症カテゴリー群としてまとめられている.
- 不安症は,ある特定の対象などに対して,恐怖感や不安感が高まることによってパニック発作あるいは対象から回避する行動的反応がみられ,日常生活に支障を来す状態である.
- 強迫症は,反復的・持続的な思考や衝動,イメージにとらわれる強迫観念によって手洗いや確認などを繰り返すなどの強迫行為がみられることによって,日常生活に支障を来す状態である.
- 適応障害は,DSM-4分類では単独した精神疾患であったが,DSM-5分類ではストレス関連障害群に分類された.その原因は,パーソナリティの脆弱さでなく,「主観的な体験の差異」にあるとされる.心的外傷後ストレス障害(PTSD)となるほど強いストレス因子ではないが,はっきりと確認できるストレス因子によって著しい苦痛や機能の障害が生じており,うつ病や不安症に似た症状を呈する.また,そのストレス因子が除去されれば症状が消失する特徴をもつ.
- 不安や恐怖感の対象として,分娩(出産恐怖症:トコフォビア),出産に関連したトラウマによる恐怖,児に対する汚染や加害恐怖,加害衝動などがある.
- トコフォビアは,陣痛への恐怖,医療処置への恐怖,出産に伴うリスク(新生児仮死や大量出血など)への恐怖,分娩中に自分が取り乱してしまうことなどへの恐怖,1人でいる時に何か起こってしまうのではないかという恐怖などによって,日常生活の支障(不眠など),児へのボンディング障害や育児困難,精神疾患の発症などにつながる状態.
2)不安症カテゴリー群の診断
- EPDS,あるいはNICEで推奨される全般性不安障害を評価するための質問例(GAD-2:Generalized Anxiety Disorder scale-2)(表13)などでスクリーニングを行い,不安や恐怖感の対象について傾聴・受容・共感の姿勢で尋ねる.
- 日常生活に支障を来している可能性があれば精神科を受診させる.
3)不安症カテゴリー群の管理
- 薬物療法(抗うつ薬,抗不安薬など)が必要なこともあるが,不安の要因に対して理解し,傾聴・共感した上での精神療法が主体になる.
- ベンゾジアゼピン系抗不安薬の,妊娠中や産後の,特に長期使用の効果については胎児や新生児へのデメリットの方が大きい可能性があるので,可能であれば,プレコンセプションケアにおいて減量・中止や他剤への変更を考慮する(変更できない場合は葉酸400㎍/日を併用する).
- 精神科通院や薬物療法を中断していた場合は,中断による症状の変化と中断理由を尋ねた上で,精神科再診を検討する.
- トコフォビアの女性は無痛分娩を希望することが多いが,陣痛の痛みが軽減しても恐怖自体は軽減しないことが多く,分娩がトラウマにつながってしまうことがある.妊婦の信頼を得たスタッフの寄り添った支援が重要となる.