(4)Malignancy and hyperplasia:子宮悪性腫瘍および子宮内膜増殖症
ポイント
- AUB は子宮悪性腫瘍や子宮内膜増殖症の代表的な症状である.
- 経腟超音波検査で子宮内膜肥厚を認めた場合には,子宮内膜細胞診や組織診を実施する.
1 )はじめに
- AUB のうち,悪性腫瘍やその前がん状態による異常出血は適切に診断がなされないと,患者の生命予後に影響する可能性があり,我々産婦人科医の責任は重大である.
- 本項ではAUB の原因となり得る悪性腫瘍および子宮体癌の前がん状態である子宮内膜異型増殖症について概説する.
2 )AUB の原因となり得る子宮悪性腫瘍と前がん状態
①子宮体癌・子宮内膜異型増殖症
a.疫学
- 子宮体癌は本邦では最多の婦人科悪性腫瘍であり,罹患数は2018 年で17,089 例,生涯発症リスクは1/50 人(2.0%)といわれている1).好発年齢は50 歳台であり,進行期分類はⅠ,Ⅱ期が約8割と早期癌が多い.組織型は類内膜癌が82.1%を占め,他,漿液性癌が5.9%,癌肉腫が4.8%,明細胞癌が2.2%,混合癌が2.2%である2).
- 子宮内膜異型増殖症は子宮体癌の前がん状態と考えられており,25~40%の頻度で類内膜癌に合併し,30%は類内膜癌へ進展するといわれている3).
b.症状・リスク因子
- 代表的な症状はAUB であり,他,月経不順,褐色帯下,膿性帯下,腹部膨満感などであるが,AUB は比較的早い時期から認められることが多い.
- 子宮体癌のリスク因子として,早い初経,遅い閉経,少ない妊娠・出産,未婚,不妊,多囊胞性卵巣,肥満,高血圧,糖尿病,エストロゲン産生腫瘍,タモキシフェンの内服,遺伝性腫瘍(Lynch 症候群,Cowden 症候群など)の関連などが挙げられる.
c.診断
- 診断のフローチャートを図15 に示す.
- 一般的に無症状無リスク因子患者に検診を行う意義は確立されておらず,有症状または有リスク患者に対して検査を行う.スクリーニング検査としては経腟超音波検査(TVS)と子宮内膜細胞診が挙げられる.
- TVS は,疼痛を伴わない検査であり,特に閉経後の患者のAUB の際の子宮体癌のスクリーニングに有益である.AUB を呈する女性で内膜厚5㎜以上では子宮体癌が7.3%で認められた一方,5㎜未満では0.07%未満であったとの報告があり4),内膜厚5㎜以上では子宮内膜の精査を行う.他方で,閉経前の患者では内膜厚は月経周期によって大きく異なるために,TVS による子宮体癌のスクリーニングは困難である.
- 生殖可能年齢の子宮内膜肥厚は妊娠初期による可能性もあるため,内膜検査を行う際には必ず妊娠の可能性について問診すべきである.
- 子宮内膜細胞診は本邦で頻用されるスクリーニング検査である.2008 年の日本臨床細胞学会による調査研究によると,感度は79%,特異度は99.7%であり,単回施行の精度を過信してはいけない5).閉経前の低異型度の癌や,限局性の病変,子宮筋腫や子宮腺筋症など子宮の腫大や変形を伴う症例では診断が困難となり得る.内膜細胞診に異常がなくても,臨床症状や画像所見などで悪性を疑う場合においては子宮内膜組織診や子宮内膜全面掻爬を施行すべきである.
- 確定診断は子宮内膜組織診であり,昨今は吸引組織診が疼痛も少なく頻用されつつある.前屈の場合は子宮腟部の12 時方向、後屈の場合は6時方向をそれぞれ把持する.無麻酔で施行されることが多いが,若年,未産婦など検査による疼痛が強い場合には傍頸管ブロックや静脈麻酔下に施行することも考慮される.傍頸管ブロックは1%リドカインを使用する.23G カテラン針を用い左右腟円蓋の粘膜下に,逆血を確認しながらそれぞれ5~10mL を局注する.
- 確定診断ののちに,骨盤MRI 検査および胸部~骨盤腔CT(PET-CT)検査を施行して,局所進展,領域リンパ節転移,遠隔転移などの評価を行った上で,治療方針を検討する.
d.治療
- 子宮体癌および子宮内膜異型増殖症の初回治療は手術療法であり,Ⅲ,Ⅳ期であっても手術療法が選択されることが多い.術式は子宮全摘出術および両側付属器摘出術が基本術式であり,進行リスクに応じて領域リンパ節郭清(骨盤・傍大動脈)や大網切除が追加される.低侵襲手術(腹腔鏡下手術,ロボット支援下手術)が保険適用となっているが,2022 年現在いずれも適応はⅠA 期に限られている.再発リスクに応じ,本邦では化学療法が追加されることが多い.
- 若年発症で妊孕性温存を強く希望する症例については,子宮内膜異型増殖症または画像検査上ⅠA 期相当で筋層浸潤を伴わない類内膜癌Grade 1 に関しては,高用量黄体ホルモンを用いたホルモン療法の適応となる.
3 )AUB の原因となるその他の悪性腫瘍
- 子宮体癌や子宮内膜異型増殖症以外に異常子宮出血の原因となる悪性腫瘍としては,子宮頸癌,子宮肉腫,絨毛性疾患などが挙げられる.
①子宮頸癌
- 子宮頸部病変でAUB を生じる場合の多くは浸潤癌であり,進行癌であることも多い.性交後などに生じる接触出血が特徴的である.出血部は腟鏡診で容易に観察可能なことが多く,細胞診など子宮腟部の擦過により出血が増量する.閉経後,特に腺癌では病変の主座が子宮頸管内に存在し,子宮腟部は一見正常に見えることもあるので,注意が必要である.子宮腟部頸管の擦過細胞診によりスクリーニング可能であり,コルポスコピーによる狙い組織診で診断に至る.
②子宮肉腫
- 子宮平滑筋肉腫や子宮内膜間質肉腫などが挙げられるが,いずれも稀な腫瘍である.最も頻度の高い子宮平滑筋肉腫であっても子宮悪性腫瘍の1~2%程度であり,子宮筋腫と類似した腫瘤であるが,閉経後にも増大するのが特徴である.骨盤MRI検査にて子宮肉腫を推定した上で,摘出子宮により確定診断する.
③絨毛性疾患
- 絨毛性疾患は妊娠や胞状奇胎に続発して起こる疾患であり,AUB を伴うことが多い.hCG の上昇を伴うため,血中hCG 測定が診断の起点となるが,正常妊娠や流産に続発した場合には,絨毛性疾患が念頭にないと診断に苦慮することが多い.確定診断は摘出子宮の組織学的検査によるが,組織学的診断が得られない場合には絨毛がん診断スコアにて診断を行う.
文献
1) 国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)[Cited 1st Feb 2022]Available from URL:https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/data/dl/excel/cancer_incidenceNCR(2016-2018).xls
2) 八重樫伸生.婦人科腫瘍委員会報告 2018 年度患者年報.日産婦雑誌.72(7):800-856,2020
3) Kurman RJ, et al. ed. WHO Classification of Tumours of Female Reproductive Organs. Chapter 5 Tumours of the uterine corpus. International Agency for Research on Cancer, Lyon.122-135,2014
4) Smith-Bindman R, Weiss E, Feldstein V. How thick is too thick? When endometrial thickness should prompt biopsy in postmenopausal women without vaginal bleeding. Ultrasound Obstet Gynecol. 24:558- 565,2004
5) Yanoh K, et al. New terminology for intrauterine endometrial samples: a group study by the Japanese Society of Clinical Cytology. Acta Cytol. 56:233-241,2012