(5)稀少部位子宮内膜症の取り扱い

事例1:33 歳の女性,0 妊0 産.
病歴:月経時の下腹部痛,血便を自覚し,産婦人科を受診した.骨盤MRI 検査で右側卵巣チョコレート囊胞が認められ,下部消化管内視鏡検査で直腸上部からS 状結腸にかけて発赤を伴う不整粘膜病変がみられた(図30 A).生検の結果は過形成ポリープであった.
治療経過:ジエノゲストが開始され,下腹部痛と血便は消失した.挙児希望から治療が中止されたところ症状が再燃したため,開腹術(右側チョコレート囊胞摘出術,腸管部分切除術)が施行された(図30 B).組織学的に子宮内膜症が確認された.

事例2:42 歳の女性,3 妊3 産.
病歴:子宮腺筋症と両側卵巣チョコレート囊胞の診断で単純子宮全摘出術と両側付属器摘出術が施行された.術後にエストロゲン補充療法を施行されたところ,術後18 カ月目から不正性器出血と腰痛が出現した.腟断端に2 ㎝大の腫瘤性病変と右側尿管の狭窄がみられた.
治療経過:開腹術が施行された.腟断端の病巣が右側尿管を巻き込んでいたため,病巣切除術と尿管部分切除術・端々吻合術が施行された.腫瘤には組織学的に子宮内膜症が確認された.

 この章では一般的な稀少子宮内膜症解説をまず述べて,各部位別の対応を述べる.

1 )発生部位

・子宮内膜症はその発生頻度からcommon site,less common site,rare site の3 つに分類され(2 頁 表1 参照),less common site,rare site が稀少部位子宮内膜症に相当する.
・消化器や泌尿器臓器の子宮内膜症は,比較的遭遇することが多く,消化器は全子宮内膜症の12~37 %,泌尿器は0 . 3~12%を占めるとの報告がある.
・卵巣やダグラス窩周囲の子宮内膜症や子宮腺筋症などを合併する場合が多いが,単独にみられることもある.

2 )症状

・病巣部位において,月経周期と関連した疼痛や出血,腫脹などを生じる.長期経過によっては月経周期と無関係な慢性症状を呈することがある(表10)
・無症状で経過し,子宮内膜症の手術時に偶然に発見されることもある.

 

3 )診断

・症状に応じて画像検査(CT スキャン,MRI 検査,内視鏡検査)や病巣部位の生検を行う.組織学的な確定診断が困難な場合には,症状と各種検査所見から総合的に診断を行う.

4 )治療法の選択

・治療法についてはこれまで確固とした指針はなく,各施設の判断に委ねられてきた.しかし,2018 年に「稀少部位子宮内膜症の診断・治療ガイドライン」が発行された.
疾患が稀少であることからエビデンスレベルの高い論文は存在せず治療法の推奨度はまだ低いが,今後はガイドラインを参考とした対応が望ましい.
・通常の子宮内膜症と同様に,内分泌療法と外科的治療に大別され(表11),外科的治療ではそれぞれの臓器の機能を温存した病巣の切除が基本である.
・結腸や直腸,膀胱の子宮内膜症は薬物療法が推奨されるが,薬物療法で症状の制御が困難な場合には手術療法が勧められる.
・胸腔子宮内膜症では,気胸や喀血などの生命に直結する症状を来す可能性があり,内分泌療法で制御できない場合など,時として外科的な救急処置が必要となる.
・臍子宮内膜症は外科的アプローチが容易で,手術療法が推奨される.
・再発や再燃の可能性から,薬物療法による長期的な管理が必要となる場合があるが,
その有用性や安全性については明らかではなく,保険診療での運用にも苦慮する.