(5)薬物療法
・子宮内膜症に対する薬物療法の基本的な考え方.
①疼痛緩和
②不妊の原因となる病巣の改善
③病巣の縮小ないし消失による手術効果の向上
④再発・再燃に対して病巣の進行を遅らせる,あるいは再発の予防
1 )薬物療法の分類
・対症療法と内分泌療法に大別される.
対症療法
非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)
漢方薬
内分泌療法
ジエノゲスト
低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)
GnRH アゴニスト
ダナゾール
レボノルゲストレル放出子宮内システム
(LNG-IUS)
アロマターゼ阻害薬*
GnRH アンタゴニスト*
*保険未収載
・対症療法
NSAIDs
・月経痛などの一時的な疼痛を緩和することに効果がある.
漢方薬
・弱い疼痛緩和効果があり,子宮内膜症に起因した気分不快などを緩和し,内分泌療法に伴う低エストロゲン症状を軽減する効果がある.
内分泌療法
・病巣に働きかける薬物療法は,現時点では内分泌製剤だけである.
・作用機序は,排卵を抑制することにより,卵巣に由来する内因性エストロゲン分泌を低下させて子宮内膜症病巣を退縮させることと,子宮内膜症病巣局所に直接作用して退縮させることがある.
・LEP 製剤,ジエノゲストを第1 選択とし,GnRH アゴニスト,ダナゾールを第2選択として投与する(表5).疼痛抑制作用はGnRH アゴニストが最も強い.
・薬物療法は,強い癒着を伴う深部子宮内膜症には効果が乏しいことが多く,大きい卵巣チョコレート囊胞の縮小効果や不妊の改善効果はあまり期待できないことから,基本的に腹腔鏡手術やART を選択する.
2 )長期維持管理のための内分泌療法
・短期間の内分泌療法では,投与を中止した場合速やかに再発することも多い.
・疼痛の抑制あるいは術後の疼痛や病巣の再燃を長期間抑制するためには,内分泌療法を長期間継続する工夫が必要である.長期投与ができる薬剤単剤,あるいはこれらの組み合わせを表6 に示す.
・GnRH アゴニスト先行投与法は,疼痛抑制効果は強いが長期には投与できない.
GnRH アゴニストの4~6 カ月投与に引き続き,低用量のLEP 製剤,ジエノゲストあるいはダナゾールを長期間にわたって投与し続けることで,GnRH アゴニストで得られた疼痛抑制効果を長期に維持することが可能となる.
3 )内分泌療法と副作用
① LEP 製剤と血栓症
LEP 製剤により静脈血栓塞栓症(VTE:venous thromboembolism)リスクが増加するとされる.実際の年間発症率は1 万人あたり9 人程度で稀であるが,VTE 予防の観点からは,エストロゲン含量の少ない薬剤の使用が望ましい.術前4 週以内,術後2 週以内,産後4 週以内および長期間安静状態の患者には禁忌である.VTE 発症の前兆としては,以下の症状:ACHES(A:Abdominal pain;腹痛,C:Chest pain;胸痛・突然の息切れ,H:Headache;激しい頭痛,E:Eye/speech problem;急性視力障害・構語障害,S:Severe leg pain;下肢の疼痛・浮腫)に注意する.
②ジエノゲストと不正子宮出血
ジエノゲストは,病巣への直接作用を有し,慢性深部痛に対する効果も高い.また,肝機能,脂質代謝や凝固能への影響が少なく,血栓症のリスクなどから閉経周辺期や肥満事例などのLEP 製剤が使いにくい場合にも使用できる.本剤では,GnRH アゴニストでみられるエストロゲン欠乏症状が少ない.副作用として,使用後数カ月間の不正子宮出血が挙げられるが,継続的投与により出現頻度は減少する.