(7)ISRR の集団発生に関する検討
・ 生理学的な原因が同定できないにもかかわらず,ある集団の複数の人たちに類似の症状が同時に出現する現象は古くから知られていた.共通の原因で発症したという「思い込み」に起因するものと考えられている.このような「思い込み」は周囲の人々や,報道,ソーシャルメディアを介して短時間に伝播する.予防接種後の有害事象がこのような状況下で起こると ISRR の集団発生ということになる.ただ,このような現象は特定の年齢層でのみ知られており,思春期と若年成人での報告は多数あるが,乳児や低年齢の小児での報告はない.このような現象は「集団ヒステリー」「集団性心因性疾患」などと呼称されることもあるが,症状を呈している人々はそれを屈辱的ととらえて問題を悪化させる可能性がある.
・ 2018 年に実施された ISRR の集団発生についての検討(表15)によれば,発生は地域や所得に関係なく,集団の大きさは 7 名から数校の学校にまたがる 806 名まであったが,ワクチンの製品や接種プログラム,接種手技のミスによるものはなかった.表15 に示すように ISRR の集団発生は多くの国々で,種々のワクチンの接種後に報告されている.また,ソーシャルメディア(SNS)による情報拡散がこのような集団発生を惹起させた結果,複数の国で予防接種制度が影響を受けたことも報告されている.